「ねえ、あんたうざいのよ。」
クラス、いや、学校中で注目の的となっている美少女転校生、工藤リンナが天使のような微笑みを向けながらこう言い放った時は、流石に幻聴が聞こえたのかと思った。
「え?ごめんなさい工藤さん。もう一回おねがーー」
「だから、うざいっつってんのよ。頭だけじゃなくて耳までオカシイの!?」
ふっと馬鹿にするような表情で嘲笑う彼女の姿を見て、ああ、この子マジで言ってんだな、と頭は理解する。然し、かれこれ三ヶ月ほど彼女と苦楽を共にしてきたと思っていたこの心は、その事実をたやすく受け容れてはくれなかった。
…え、ちょい待て。私、工藤さんの癪に触るようなこと何かしたっけ!?
すると、私のこの考えを見抜いたかのように彼女は直々に解説をくださった。
「いっつもいっつもバスケ部のメンバーにベタベタして!マネージャーだからって調子乗ってんの?言っとくけど、蒼瀬くんと付き合ってるのはこの私なんだからね!?あ、あとスポドリ渡すついでに『頑張ってね』とか、デキるマネアピールでもしてんの?役立たずの癖に?ウケるんですけど。あんたはずっと、私の引き立て役でもしてればいいの!出しゃばるんじゃないわよこのブス!!」
お、おおう。おう。
ノンブレスで言い切ったぞ此奴。強者だ。
どこから突っ込めばいいのかわからんが、取り敢えず…
「……す、素晴らしい滑舌っすね…」
「はぁ!?」
「すません調子こきましたすません!」
ちょっと場を和ませようと思っただけなのに!!額に青筋立てるって何!?リアルに見たの初めてなんだけど!!頭文字に「や」のつく自由業さん顔負けの恐さだわ!!恐すぎだわ!
あとですね、いろいろ誤解されてる部分があるんですが。
まず、私がメンバーにベタベタしてる、って言ってたけど……ただでさえ汗かきまくってて見てるだけで暑苦しいのに…自ら汗臭いところに飛び込む勇気はありません。どこのもの好きだよ。
次に、スポドリの件は…ちょっと、後輩いびり受けてたから…あの子。せめてもの景気付けに、と思って言ったんだけど…ていうか、聞こえてたんだね。地獄耳かよ。
と、いうことをかなりオブラートに包んで至極丁寧にご説明して差し上げた。途中から工藤さんの反応がなくなってきたけれど、気にせず話し続けた。そして話し終えた頃、辺りには風の吹く音だけが響いていた。沈黙。
……気まずい。しかも、早く行って着替えないと部活始まっちゃうよ……。
下げていた頭を上げ、恐る、恐る工藤さんの顔を覗き見る。
その表情は、びっくりするぐらい何もなかった。
「はぁ…マジムカつく。から、あんたは消えてよ」
「…どゆこと?」
「……」
私の問いには答えず、工藤さんは去っていってしまった。
意味が分からないが取り敢えず、私も彼女のあとに続いて体育館へ向かった。
絶望へのカウントダウン、開始ーーー。