人生とは、実にイージーである

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2:ムクロ氏@太もも大神:2016/06/14(火) 23:31 ID:3uI

生ぬるくて、ねっとりとした風に髪を預けて、私はうーんっと言いながら伸びをする。
今日もいい朝だ。昨日の夜に雨が止んだばかりだというのに、アスファルトには水溜まりなどほとんどない。
蒸発したのね、と私は最近理科で習った語句を使って、心の中で呟いた。

空は昨日と違って青空だった。青空ほど心を爽やかにしてくれるものはないだろう。
私は学校への近道でもある、田んぼの畦道にへと足を踏み入れた。ぬるっとした、靴の裏から伝わってくる感触など、気にしない。

畦道でぴょこぴょこ跳ねる蛙の上を、私はぴょこっと跳ねて前へ進む。田んぼ近くの畑から、夏野菜の匂いがする。
……そろそろ、給食に夏野菜出てくるころだよな。
私は畦道から抜け出し、学校裏のアスファルトの灰色の道路に出た。靴に着いた泥を、道路に擦り付けて、なるたけ靴を綺麗にする。代わりに、道路は灰色ではなく、茶色になった。
これでよし、と呟いて、学校の正門に向かって歩き出す。
学校の裏にも正門をつけた方がいいのにな。___これは、私がめんどくさいから、そう思うだけなんだけどね。

正門が近くなり、あと数メートル……というところで、声をかけられた。

「おはよう、春樹ちゃん」

振り向くと、長い髪をおさげにした宮川さんが居た。宮川さんは小走りで私の隣に来た。

「おはよー。どうしたの、今日早いね」
「あたしがいつも遅いってこと……?」
宮川さんは、頬を膨らました。

「……酷くない、それ」

そう言いながら、顔は笑っている。ごめんごめんと繰り返して、私も同じように笑って返した。

「でも、本当に早いね。どうしたの?」

自慢じゃないけど、ううん、やっぱり自慢なんだけど、実は私、クラスで一番登校してくるのが速いんだ。
だから、宮川さんが同じくらいの時間帯に歩いてて、ちょっと悔しかったりする。

どうしてこんなに速いのか、突き止めてやる!
私は意気込んだ。___よく考えたら、どうでもいい意気込みだった、なんて、全然気づけてない……。

「今日、あたし、日直だからだよ」

そうなんだと、私は頷いた。
日直なら早いのも頷ける。……ん、でもまって。日直でも、花に水をあげたり、日誌を書いたりする程度で、こんなに早くくる必要はないはず___

「ちょっと可笑しくない?」
「あ、バレた?」

ニヒィとイタズっ子みたく宮川さんは笑った。

「ここだけの話ね、実は今日、不登校の相川ちゃんが珍しく登校してくるみたいだから、いつ来ても教室に入りやすいように、あたしは早く登校しなきゃいけないの。
誰もいない教室に、入りたくないでしょ?不登校の子なら尚更じゃない?」
「……なるほどねえ」

不登校、か。相川さんって確か、いじめが原因不登校になってしまったって聞いたけど、大丈夫なのかな?
逆に、教室に誰かいた方が入りづらいんじゃ……?

そこまで考えて、私はいけない、と首を振った。
ダメだよ、こんな風じゃ。
えぇっと……相川さんは、頑張って学校に来たんだ。それを、バカにする人なんているもんか。教室に誰かいてもいなくても、相川さんの勇気は変わらない。
入りづらい、なんて、私のただの想像なんだから、それを真実としてみちゃいけない。

校門をくぐり、私たちは次に校舎にへと向かう。昇降口に入ると、二人くらいの女の子たちがキャアキャアいいながら、靴を履き替えていた。
私はそれを横目に、宮川さんに声をかけた。

「相川さん、楽しんでくれるといいよね」

宮川さんの顔を見れば、驚いたような顔をしていた。
どうしてっていう、そんな顔。

「あの子、いじめられてたんだよ?」
「でも凄いじゃん。来てくれるなんて。……ほら行こう、相川さんの為にもね!」

靴を脱いで、それを下駄箱にしまった。シューズを出してそれを履く。最近買い替えたから、ちょっと緩めだ。

「ね、宮川さん」
「……ああ、うん、そーだねぇ……」

この子の人生、楽しいのかな、と私は宮川さんを見て思った。
彼女は楽しくなさそうだ。いじめをしてたし、何より、考え方が窮屈だから。


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