宮川さんが駆け足で教室に入った。それに習うように教室に入ると、知らない子が居た。
……いや、その子のことを見てたら、だんだん思い出してきたぞ。確か、結構前から不登校だった、相川さんだ。あまり見ないから、誰だか分からなかった。
相川さんは眉を寄せて、いぶかしげに私を見た。ずっと顔を見ていたから、変なやつだと思われたのかも。
私はそそっと目線をそらして、相川さんから離れた、自分の席に向かった。
六年間使い続けている赤いランドセルを下ろして、席に座る。
チラッと相川さんを見ると、目が合った。
私は早々と朝の準備を終えると、相川さんのもとにへと向かった。
相川さんは、変わらず眉を寄せて、眉間にシワを作っている。
大変!シワだらけのお顔になっちゃうよ!これであなたもお婆さんの仲間入りだわね!……って、言えたらいいのだけれど。
「ねえねえ、相川さん。おはよう、そして久しぶり!」
ニコォッと、自負できるくらいの、輝かんばかりの笑顔で話しかける。
けれど、相川さんはブスゥとして、不機嫌な顔をさらにレベルアップさせて、私を睨んできた!
……どうしてだろう?何がいけなかったのかなあ……。
少し考えてみた。
相川さんはいじめが原因で不登校になってしまった。そして今日、頑張って学校に来た。けど、気まずくないようにと、先生に命じられて朝早くからやって来た宮川さんは、自分の席で漫画(持ってきちゃいけないのにね!)を読んでいる。
うーん、確かに不機嫌にもなるわよね。でも、それと私は関係ないし、私に当たっても、解決にはならない。より不快になるだけだ。
それに、悪いことだって、どんどん引き寄せちゃうし……。
私は「ねえ」と、また話しかけた。
「今日は道徳の授業があるね。話を聞いてるだけで、幸せな気分になるよね〜」
「……そうだね」
あ、シワが増えた。
相川さんの刺すような視線が怖い。もしかして、私を殺そうとしてる?(もちろん、これは冗談!)
……どうしよう。こういう負のオーラを出しまくる人って、そんなに居ないよね?
窮屈な考えをした宮川さんですら、もう少し正のオーラを出せるのに……。
あ、だめだめ。こんな風に思っちゃ。比べたりだなんて、とんでもないわ。私こそ、負のオーラを出しちゃう!
「あ、今日天気良いよね。昨日の雨が嘘みたい!」
「……そうだね」
同じ言葉ですよ、それ。
なかなか会話の進まない私達を見かねてか、宮川さんがやって来た。
三人での会話もいいよね!
そう思ったところで気づく。宮川さんの様子が可笑しいことに。相川さんも、より不機嫌になってる。
……あ、そうだった。相川さんをいじめてたのって、宮川さんがリーダーのグループだったんだ!
心の中でポンっと手を打った。
宮川さんが、相川さんを見下ろし、
「春樹ちゃんの優しさが分からないの?……これだからバカは困るなあ!」
と、ほぼ怒鳴っているような声で言った。相川さんはそれに怯まず、「はあ?」と返した。
宮川さんが相川さんの机の脚を蹴った。ガタンという音が響いた。
何これ、喧嘩?いじめ?
___止めないと!
私は、また怒鳴ろうとする宮川さんに向かって、冷静さを装って言った。
「ダメだよ、そんなことしちゃ。何も楽しくないよ、こんなの。ね、楽しくお喋りでもしよう?」
宮川さんは「ううん」と首を振った。
「ダメなの、コイツは。こうでもしなきゃダメ。コイツ、きょーちょーせーがないの」
「でも……」
「いいの。コイツを生かしておいてやってるだけ運が良いんだよ」
宮川さんが、相川さんを見てニタアと笑う。
相川さんは宮川さんを睨み、そしてため息を吐いて下を向いた。
「ゴミはゴミ箱に入ってればいいのに」
たっぷり十秒。相川さんの言葉を理解したらしい宮川さんが狂ったように怒鳴った。
狂ったようにガンガン相川さんの机の脚を蹴る。いや、蹴り飛ばす。
相川さんは席から立ち上がって、逃げるように、宮川さんと自身の机から離れた。
それを見た、宮川さんと言ったら。なんと表現すればいいか分からないほど、怒り狂っていた。
私は二人の喧嘩についていけてなかった。どうしてこうなってしまったのかも、分からない。
私は久しぶりに、暗い気持ちになった。