説明会でカリキュラムやら何やらの説明があって、終了したのは3時を過ぎた頃だった。
吹奏楽部の歓迎演奏が後ろで流れている。
俺は貰った資料を手に、帰路に着こうとした時だった。
頬に冷たい感触。
「……うわっ、雨かよ」
小雨だったのが次第に強くなり、アスファルトのまだら模様が大きくなっていく。
周りでは傘持ってねーとかキャーとか色々な声が飛び交っている。
俺も天気予報の降水確率が10%だったから持っていかなかった。
親も多分俺がどこにいるのか分からないから迎えに来ないだろう。
「あーあ、こんなことなら持ってくりゃ良かった……」
溜息をつき、早足で歩き出したその時だった。
「やめて!」
甲高い女性の声がしたかと思うと、その直後に金属音が鳴った。
「……何だ?」
こういうのは放っておけない性分なんだ。
特に困っている人を見ると助けたくなるし、助けないと後から罪悪感で押し潰されそうになる。
そのせいで損をしたり逆もまた然り。
この大雨のせいで声がかき消されたか、校舎内に雨宿りしたか、またその両方か、俺以外にその声を聞いた者はいなかったらしい。
校門にいたのは俺だけだった。
声がしたのは体育館裏。
黒服の男と、若い女性が揉めている。単なる痴話喧嘩だろうか、首を突っ込まないほうがいいのか。
というか高校内でナンパだの痴話喧嘩をする可能性は薄いよな……
「やめなさいって!あぁ、映光はまだなの!?時を止めてくれれば……っ」
「いいからそれを渡せと言っているだろう!研究に必要なんだ!」
「貴方たちなんかに渡すわけないでしょう!?これは大事な形見なんですから!」
どうやら痴話喧嘩でもなく、宝石の取り合いらしい。
若い女性が持っていえうのは、水晶玉の中に蒼い宝石が埋め込まれているブレスレットだった。