俺は自分が雨に打たれていることも忘れ、その場で呆然としていた。
「ギフトの研究が進めば、膨大な力が手に入る!」
「いいえ!ギフトを悪用する者が必ずいるはずです。信用できない人間にこれを渡すわけにはいきません」
若い女性は、黒服の男に追い詰められていた。
壁に手を押し付けられ、身動きができない状態だ。
「さぁ、いいから早くそれを!」
黒服の男が彼女の手からブレスレットを取ろうとした。
まずい、このままでは彼女は――
事情はよく分からなかったが、この男の手にそのブレスレットが渡ってはいけないと思った。
俺は気が付けば財布から500円玉を取り出し、ブレスレットをめがけて弾いていた。
――カキンッ
「……えっ!?」
彼女の手から勢いよくブレスレットが飛び出し、宙を舞って落ちた。
美しい水晶は、泥水に埋もれて汚らしくなっている。
「何をしているんですか?こんなところで」
――俺は一体何をしているんだ、危ないことには首を突っ込みたくない!
内心そう思っていたが、体が勝手に彼女を助けていた。
「警察でも呼びましょうか?」
「……っ!」
黒服の男は悔しそうに顔を歪め、その場から立ち去った。
無様な足跡が残った。
「はぁ……大丈夫ですか」
俺はつかつかと弾き飛ばしたブレスレットへ歩み寄り、拾ってハンカチで拭くと、彼女に手渡した。
「あなた、お名前は?」
彼女はそれを受け取ろうとはしなかった。
「えっと……深峰響也、ですけど」
多分今俺の顔は、前髪が額に張り付いてカッパみたくなっているだろう。
できれば早くこの場を立ち去りたい。
「貴方ならギフトを……」
彼女は小声で何かボソッと呟いたが、俺には聞き取れなかった。
「あのー……」
「あげる」
「……はい?」
俺がもう行っていいですか、と言おうとしたのを遮り、彼女は俺の手にブレスレットを握らせた。
「そのブレスレット、貴方にあげるわ。私が持っていても、またアイツ等に狙われるだけだしね。貴方ならギフトが覚醒しても悪用しないでしょうし」
「は!?意味、分かんないんすけど……」
急にこんな高価そうな代物を押し付けられても困る。
形見だとか何だとか言ってたし……
「あなたには凄く助けられたわ。そのお礼だと思って頂戴」
「はぁ……」
俺がブレスレットから顔を上げた頃には、もう彼女はいなかった。
俺が体育館裏から出ると同時に、長い髪の女の子とすれ違った。
一瞬だったが、俺はその女の子にキッと睨みつけられた。
いや、俺じゃなくて俺の持っていたブレスレットを睨みつけていたのだろう。
急いでいたようだったが、目的はよく分からなかった。
「遅いわよ、映光」
「すみません!途中で一般生徒に見つかってしまって……!それで、7つ目の覚醒石は!?」
「無事よ。でも貴方ではない、別に人に託したわ」
私は先生の話を聞いて、さっきの男の顔を思い出していた。
自分でも気づかない間に歯ぎしりしていたが、もうどうにもできなかった。