・チャプター3 〜ルートA〜
私は苦笑いを浮かべている女子へと歩み寄った。
「災難だったね……」
私が元いた場所に戻ると彼女は苦笑いではなく、温かい笑顔で迎えてくれた。
「あの……私、如月春花(きさらぎ はるか)。……私も、何でこんなことになってるのか分かんないけど……と、とりあえずよろしくね……!」
茶色がかったショートカットの髪の毛を揺らしながら、窓の外から降り注ぐ月光を背にどこか申し訳なさそうに笑う彼女はそう言うと私の奥、さっき私を追いやった彼を見ながら続ける。
「きっと川端君、錯乱してるんじゃないかな……そっとしておいて、あげて」
カワバタ、というのはおそらく彼の名だろう。
名前を知っているということはお互い顔見知りなのかな……。
そう思った瞬間――。
「………!?」
私の脳裏にある単語が浮かび上がってきた。
ただの偶然、もしくは勝手な妄想。
何の根拠もないその情報を、しかし私は確信をもって口にする。
「もしかして。川端……堅蔵(けんぞう)君?」
「え……。あ、うん。川端君の名前ってたしか、ケンゾウだったと思う…けど」
私の剣幕に元々まんまるだった目をさらに見開き、ビクッと身を引く如月さん。
しかしすぐに何か納得したのか、呼吸を整え続ける。
「あ、やっぱり……知り合いなの? 私達追い越して真っ先に駆けつけるぐらいだもんね……」
「いや、その。実は記憶が無くて……知り合いかどうかも分からなかったんだけど。でもなんとなく1人でいるから声かけたくなったっていうか……名前はなんというか偶然、頭の中に、ポンって浮かんできただけなんだ……」
「そ…そっか。でも名前を知ってるってことは彼とクラスメイトだったり……するのかな。……だったら、私ともクラスメイトだったりして……」
「え?」
どういうこと? と彼女に向き直ると、その反応にまたしても体をビクつかせながら如月春花は矢継早(やつぎばや)に答え始めた。
「え、えっと。あの、私と川端君は、その……クラスメイト、で。話したことは無いんだけど、でも一緒のクラス……だった気がする、みたいな……。だ、だから! あなたも川端君を知ってるなら、もしかして一緒のクラスだったのかな……なんて、思って。あ、勝手に決めつけてごめんなさい……私もあんまり記憶……なくて……でも、なんかそんな気がして……その、決めつけるつもりじゃ……」
どうやら緊張のあまり暴走しているようだ。
何か話題を振って話を変えよう。
Q 何について聞こうか……。
A 隅に陣取っている、真面目そうなメガネ男子について
B 私の名前について
C 川端堅蔵との関係について、さらに聞く