〜志織の回想〜
始まりは、いつだったんだろう。そもそもの始まりは、
「この、妖怪風情が!」
バシッ。
「…ッ…!」
私は河元志織。容姿は人間。白い髪に紅い目。異世界からやって来た、…俗に言う、妖怪。私の普通の人間とは、圧倒的に違うところ。それは…
時間を止められる能力のこと。
何も操れるわけじゃない。速めたり、遅くしたり、戻したりなんてことはできない。人間の世界で人間に受け入れられるはずがない。ーそう、頭では分かっている。でも、でもだからって、そこまで嫌う必要はないはずだ。
私だって、普通に産まれたかった。
異世界でも、能力を持っている者はかなり少なかった。産まれてくる子供の五千人に一人くらいの割合で、能力を持った子供が産まれてくる。珍しいとはいえ、嫌われたりなどしなかった。普通に遊んで普通に暮らせる、普通の子供時代を暮らしていた。なのに…
「お父さん…お母さん…?」
私が外で遊んで帰ってきたら、このざまだ。両親が死んでいる?目の前には鼻息を荒げ、返り血をあびた真っ赤なナイフを持ち、返り血を浴びた真っ赤な服を身に付けた、知らない男が立っていた。私が居ると気付いた瞬間に、男は私を刺してくるかと思いきや、
大きな両手を私の首に向かって伸ばしてきた。
「ぐっ…。」
苦しい。息ができない。でも、死にたくない。こんなことで、こんなところで死んでたまるか。
「助…け…。」
あぁ、落ちる、死ぬ。でも、私はー…「死にたくない…!」
こんなところで死んでたまるか。その時私は、産まれて初めて、能力を使った。能力を持っていることは知っていた。でも、使わなかった。いや、使えなかった。自分という生き物が革命を起こすのは、こんなちっぽけなきっかけだったんだ。もっと壮大なのをイメージしていた。時は今止まっている。ここが、始まりだった。私が能力をコントロールできるようになったのは。時間が止まっているせいか、苦しくない。呼吸ができる。
「…よっ…と。」
急いで台所へ行き、ナイフを取ってくる。そして、
「時は…動き出す。」
「…なっ…!?」
男は驚いた。そりゃそうだ。目に見えないスピードで、目の前のものが消えたんだから。
グサッ。
「……………ッ!!」
ナイフで心臓の辺りを一突き。
男は倒れた。死んだんだろうか。いいや、確かめるまでもない。男は死んだのだ。ピンポイントで心臓を刺したのだから。
「はぁ…はぁ………」
初めて能力を使ったついでに、初めて人を殺してしまった。人を殺したのだ。捕まってしまうのも時間の問題かもしれない。じゃあ、もういい。
「もう、ここでは暮らしていけない…。」
人間の世界へでも飛び出そう。さよなら、みんな。
あぁ、やっと見つけた。こんな私の能力を受け止めてくれる人間。
それがー…
切嶋葵だった。
〜志織の回想 完〜
〜続く〜