───未練師───
「貴方がフレアの…ぱあとなぁなの?」
しんと静まり返る神聖な教会のパイプオルガンの前に、崩れたかのように座り込んでいる瞳を開かない少女の真っ白な頭髪と肌をステンドグラスから差す光が照らす。
「パートナーだ。それよりも気分は悪くないか?」
そんな少女に淡々と言葉を並べる青年。彼もまた、少女と同じようにステンドグラスの光に照らされている。
「気分、悪くない。ぱあとなぁ、貴方の名前はなーに?」
「俺は、陽炎[ようえん]そう呼ばれている。好きに呼べ。」
「よーえん…?ようえん…?陽炎?貴方は、陽炎。」
次第に幼い声は大人のように美しく耳の鼓膜を打ちはじめた。
「ああ。名前、聞いただろ?かたくるしい契約、さっさと済ませようぜ。」
「では。陽炎、今日よりフレア(flare)は未練師の契約に従い貴方に同行することを誓います。陽炎、手を。」
艶やかに咲くフレアの声は少女らしからぬ声の色であり、そんな声とともに滑らかに差し出された両の手。青年、陽炎は静かに少女の細く小さな両の手を両の手で握り返した。
「俺は、今日より未練師としてこの世に存在し、フレア(flare)の同行を認めます。そしてこの両の手を契約の証とし、今再びこの世へフレアの魂を呼び戻す。」
青年が告げ終わると少女の細い身体は紅の光に包まれ、フレアの光に細く透き通る髪はほんの少し毛先が赤味を増した。閉じられていた瞳は潤いを取り戻し、今一度開かれた。真っ赤に燃え盛るような紅の瞳は陽炎を見ていた。
「ああ、戻ってきた…の?」
フレアは新しく陽炎との契約によって発生した紅の光によって作り変えられた身体を流すように眺めてから呟いた。
「フレア、気分はどうだ?」
優しい陽炎の言葉にフレアは鼻でくすっと笑った。
「最っ高。またこの世界に戻る日が来るとは死んでから思っていなかったから…。」
フレアは潤んだ瞳をさらに潤ませ、涙を流した。
「フレア、泣くなよ…。」
「だって、だって…!まだ私ちゃんと死んでなかったんだなって。」
フレアの姿が12歳程度だからだろうか。言葉がこんなに突き刺さるのは。幼き少女の死とは言葉ひとつでこんなに悲しいものなのか。陽炎は心でそう感じた。