「 知ってる?俺、留学すんの 」
喧騒の中で、彼の声だけが凛と聞こえたような気がした。
元から騒がしい声など都合良くシャットダウンされる耳だから、そこまで聞こえてはいないもののいつも彼の声だけが鼓膜を震わせていた。
けれども、今の彼の言葉は鼓膜だけではなく心臓も震えさせるものだった。
なあ、と覗き込む仕草。いつも通りの彼の癖。
窓から吹き込む風が冷たくて誰かが「 寒い 」だなんて言って締めてくれた方が心中は良かったのかもしれない。
けれどもこの風が生暖かい、肌をつんと掠める程度の痛さだったから。
依然、吹き続ける風に言葉を乗せた。
「 貴方が知ってて、私が知らなかった事なんてあるの? 」
すると、彼は目を丸くしてからくしゃりと笑ってこう言った。
「 言うと思った 」