すーーーーーー・・・・・・
はぁーーーーーー・・・・・・
現在深夜3時。部屋中にタバコの煙がモクモクとたまる。
聞こえる音は、タバコを吸って吐く音と、パソコンのキーボードーを叩く音だけ。
風香「すぅーーー・・・」
部屋は物の位置が把握できないほど真っ暗で、
把握できることは、パソコンの明かりに照らされた女の子の顔と、タバコについた火だけである。
風香「・・・実況動画あがってないなあ。なにしてんの。あたしが暇じゃん。」
そう呟くと、悲しげにパソコンの電源を落とす。吸っていたタバコの火を消し、ベットに倒れこむ。
小学生の頃はぬいぐるみが側にないと眠れなかったが、今はもう必要ない。
もう一人だけで眠れるのだ。
風香「・・・ハァ」
タバコを吸っていた時とはまた違った息を漏らす。
大学二年生の秋に大学を中退し、晴れてニートの仲間入りを果たした。
特にいじめられたり、部活がきつかったりということはない。
ただ単に、学校に行くのが「面倒くさかった」のである。
元々人見知りな性格で、人と会話することが大の苦手だった。そんな人付き合いからも解放されたのだ。
このままじゃいけない…とは少し思うが、今の生活が楽すぎる。今を失いたくない。
風香「みんな明るすぎるんだよ。みんなが異常なんだよ。あたしは悪くないもん。あたしは・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
一粒の涙を流しながら、風香はそのまま眠りについた。
翌日
・・・・・・〜♪
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・・・〜♪♪♪♪♪♪♪♪
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〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
風香「あー!もううっさいな!なんだよー!」
眠りを邪魔され憤怒した風香がスマホを手に取る。
あっ
風香「・・・よっしーか」
中学からの同級生で唯一の親友、吉田亜香里からの電話だった。
ピッ
亜香里「あ、ふーちゃん、もしもし?」
亜香里からはふーちゃんと呼ばれている。このあだ名は子供っぽくて苦手だ。
風香「そのあだ名やめて・・・笑 んでー、どした?」
亜香里「あ、ゴメンゴメン。 あのね、私の近所に喫茶店がオープンしたの。そこのパンケーキがもう美味しそうでさー・・・。値段もお手頃だし、どう?一回行ってみない?」
風香「ん、あ、あー喫茶店ね〜」
…正直、行きたくはなかった。
亜香里の近所となると、自転車で15分…往復30分もチャリンコを漕がなくてはいけないからだ。
しかも、亜香里の家は長い坂を上がった場所にある。
普段運動をしていない風香からすれば、地獄のような道だ。パンケーキという対価を貰っても、それでは割に合わない。
……しかし。
風香「行き……行きたいね、うん。あたしもパンケーキ食べたい」
唯一の親友、亜香里からは嫌われたくない。
その一心だった。
嫌われないためには自分の気持ちを押し殺し、相手の意見に賛同する。
それしか今の風香にはできない。
亜香里「わかった!ありがとー。じゃあー、私の家に着きそうになったら連絡してー」
風香「う、うん」
…ピッ
風香「・・・はぁぁぁ」
ひとつ、大きなため息を漏らす。親友でさえ、言いたいことが言えない。
普通の人なら、えーめんどくせー、とか言えるんだろうか。
言えるよな。親友だもん。みんなあたしとは違うんだ。
こんな些細な事でも落ち込んでしまう性格が、風香は大嫌いだった。
自分を変えたい。でも変え方が分からない。
…そもそも
変えるまでの道のりが面倒くさい。
風香「なんかこー、スパッと性格変わらないかなぁ。そんな手術があったらすぐ受けてー…」
そんな手術あるわけないし、あったとしてもお金のないニートの私には無理だ。
さらに悲観的になる。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・着がえよ
重い腰をあげ、トテトテと歩きクローゼットを開ける。
これも、自分を変えるためだ・・・
そう自分に言い聞かせ、亜香里の家へと向かう風香であった。