プロローグ
穏やかな春の日差しが校舎内に降り注ぐ。
入学式の最中を抜け出した校舎内ほど
静かな場所はないと僕は思う。
背中の中央で少しばらついた長さの黒い髪。
少し先にいる君の結いていないその髪は
光に当たると絹のようにそれは
滑らかに、艶めかしく輝く。
春風の吹く、改築されたばかりの白い校舎内で
1人伸びやかに鼻歌を歌う君。
僕の足音に気づいた君はくるりと振り向く。
「聞いてたの? 」
驚く君は僕がうんとも言わない間に、
目を少し細めふわりとした笑顔を浮かべた。
微笑むと、また何事も無かったかのようにまた歩み出す。
名も知らない君に僕は────。