「お前、手が動いていないぞ!何勝手に休んでんだよ!?」
「ひっ!も、申し訳ございません!」
また、始まった。ご主人様の八つ当たり。やはり最近儲けが減ったからだろうか。今度は、掃除と肩もみその他もろもろ役のリーファさんか。うわ、酷い。何も胸ばっかり切り刻まなくてもいいだろう。リーファだって奴隷であれど女性なのだから。やっぱり奴隷は奴隷だし、男も女も関係ない。やっぱりムカつく。でも上からも同じ目線からも声はかけられない。でも口を出さずにはいられない。
「ご主人様、ここのところ病も流行っているようですので。いつもは強いリーファですが、きっとリーファも少し風邪気味なのでしょう。ここはひとつお許しをもらえませんか?」
「何だ、俺にやめろと命令するのか?」
本当に、酷い顔。憎い顔。苦い顔。
「いいえ、ご主人様。ただ、そのだらしない怠惰なゴミに触れるのはどうかと思いまして。ならばせめて同じゴミではありますが、まだかろうじて良質なゴミであるこの私めを同じめに、合わせたいめに合わせてはいかがでしょう?」
「ああ、そうだな。おい、そこのお前。ああ、リーファとか言ったか?牢に連れて行け。2日間飯抜きで許してやろう。」
「ご主人様、申し訳ございませんでした。」
そう言ってリーファはゴルザとミレミに牢に連れて行かれた。同じ奴隷同士であるとすごく心がいたむ。
「おい、シアーナ。お前はリーファの罪を肩代わりするんだろ?」
「はい。」
首を縦にふる。
「ではお前は拷問部屋だ。」
「…っ、は…い。」
まさか少し手を休めただけで拷問部屋行きとは。クソ。そこまでとは考えていなかった。でもリーファではなく私でよかった。リーファは体こそ免疫力が強くて病には強くとも、痛みには強くないのだから。それがエルフと人間のハーフの力。リーファは、風邪はひいていないだろう。きっとエルフヒューマンの力でどうにでもなるはずであるから。
拷問部屋に来るのは何度めだろうか。ひどく腐った血の匂いに微かに人の死臭が残っている。とにかく暗くて寒くて汚くて臭い最悪な場所。
私は鎖で手足をつながれ、壁に貼り付けられた。
「シアーナ、お前はいつも肩代わりをするなあ。何故だ?答えない場合は指を一本ずつ落としていくからな。」
「はい…。今日のリーファの場合ならば、リーファはまだ私よりも年下であるからでございます。」
「ほう。では、シアーナお前はどこの生まれだ?」
「私は元々はリャンシーという民族の者で南の砂漠を転々としていたのでございます。なのでどこで生まれたかというのは定かではございませんが…砂漠の神殿に着いた時に生まれたと聞いています。」
「そうか。リャンシー族か。だから暑さに強く、体術から何から何まで揃っているわけか。」
「では…、お前はなぜ俺に指図す、るっ!」
グリっと右腕の二の腕にナイフを突き立てられる。不意打ちだ。
「ぐ…ああああああああっ!」
ジャラジャラと鎖が擦れて音がする。
「お前の家族の名は?」
「い、いえませ…ん。」
右の親指に異変を感じた。親指はすでに地面に落ちていた。その瞬間いきなり痛覚が戻ってきて痛みの世界へ誘う。
「ぎゃあああぁあぁぁ…ぁぁっ!うあ、ああああぁぁぁぁあああぁっ!」
鎖の音と自分の声が混ざってすごく汚かった。