「君はさ、逃げたいとかないの?」
「ああ、ないね。別に。」
「私が人間じゃなくっても…?」
人間じゃない、か。
「…」
「あはは、流石の君もだんまりだね。嘘だよ。」
「違うだろ。」
「え?」
「嘘じゃねえだろって言った。嘘だったらもっと騙してやれたぜって感じの顔するはずなのに、なぜあんたはそんな悲しそうな顔しているんですか?」
「はは、その敬語ムカつくね。腹がたつよ。」
顔をそらしてそっぽを向いた少女は話をそらした。
「話をそらすんですか?それなら俺なりに考えがあるんですよ。」
「はは、はははは。そんな状態の君に何が…キャッ!」
「足に鎖なかったから。俺、足長いからさ。ごめんね?」
「状況なんて関係ないみたいだね。なんのつもり?」
壊れてきた。考えどうりとことん壊していこう。
「あんたは安い女だな。そんな嘘の下手な顔で、そのうえ鎖に繋がれている自分より不利な相手に負かされているなんて。」
「君が鋭すぎるのが悪いんだよ。恨まないでね?」
「…っ!」
あごを優しくつかまれまた目が合った。これは、微妙な顔だな…。怒りと憎悪、それから悲しみ。ぐちゃぐちゃな感情に見あった顔だ。
「…殺してあげるよ。今、私の手で。どうせそれすら君は怖くないんだよね。」
死が怖くないと見られたか。どうせ死ぬのは一緒だし、違うのは生きた時間だけ。おまけで言うならばその時間の間に起こった出来事の思い出と経験のみ。そうは思っているものの、死は怖い。いつ死ぬか予告なんてないし。でも今はイレギュラーな状況。予告をされてしまった。きっちり今。と。
「顔が近いな。」
少女は急に顔を赤くした。もらった。こいつは男に免疫がない。
「…殺してこそ愛!…的な考えの持ち主か?」
「ちっ、違…!」
少女は離れた。俺はそれを逃さない。足を引っ掛けて俺の方へ倒す。少女は俺の足に馬乗りになった。
「な、なな、なにすんだ!」
「…え?まあ、今からするのはキス…ってやつかな?」
「は!?意味わかんなっ…んっ!」
口付けをする。少女は急にされたものだから頭が回っていないらしい。息継ぎをするので精一杯の様子だ。隙だらけなものだから少女の内側に潜り込む。舌を絡ませて。少女の唾液を感じ、味わいながら。
「ん、はっ…んぅ。」
少女の力がすっかり抜けてしまったところで鎖を力ずくで外す。力は親父から血を引いて強いらしい。
「…ん、待ちなよ。」
息を切らしながら両腕を広げた。
「俺が何者かも知らないで連れさったりするからそういうことになるんだよ。俺が誰か知ってて誘拐ならすげえ度胸だな。」
制服のネクタイを整える。
「俺は神狩屋〈カミガリヤ〉だせ?書いて文字の通り神を狩るほど強いんだよ。」