それは、とある放課後の出来事だった。
昨晩テレビで見たスキップしながらイナバウアーをする芸人に感化された私は、学校での自分が大人しめキャラだということも忘れて部室へと繋がる廊下でスキップに興じていた。その時たまたま人が通っていなかったのも幸いして、私のテンションは頂点に達しようとしていた。と、丁度その時。
「ちょっと榛名君!このレポートどういうこと!?」
曲がり角の向こうから響いてきたオペラ歌手もびっくりの甲高い声に度肝を抜かれ、足を滑らせた私は勢いよく尻から地面にダイブした。
女子らしからぬ悲鳴が口から漏れそうになったけど、それは根性でなんとか押し殺す。だってこの声、絶対佐和ちゃんのものなんだもん……。
佐和 姫華(さわ ひめか)。この学園の女子テニス部を統べるキャプテンだ。
今年我らが砂城学園の女子テニス部は、悲願の全国大会出場を果たした。毎年県準優勝止まりだったそうなので、この快挙にはOB達も大手を上げて喜んだらしい。
無論、初の全国大会出場へ導いた主将である彼女の評価はうなぎ登り。元から成績優秀で人望も厚かった彼女の人気が、最近更に上昇してきているというわけだ。
そんな彼女がなぜこんな所に……と思ったが、それは彼女と対峙する人物を見ればすぐに合点がいった。
「あ〜?…別にいいだろこんぐらい」
榛名 直哉(はるな なおや)。この学園の男子バスケ部のキャプテンだ。
今年我らが砂城学園の男子バスケ部は(以下略)
と、いうわけだ。2人は同じ初の全国出場校のキャプテンということで、揃って色々な所に駆り出されている所をよく見かけた。
結果、これまであまり接点のなかった2人の距離が縮まった。
というか、佐和ちゃんが榛名君を好きなのがバレバレなのだ。会うたび会うたび突っかかって行くけれど、佐和ちゃんの耳はいつも赤い。
榛名君はそれに全然気づいてないのだが、周囲の人間は「あっ……(察し)」状態で2人を生暖かく見守っている。最近では、影で「夫婦」とまで呼ばれるようになった。
「またそんなこと言って!これだから男バスは……」
「はぁ!?男バスは関係ないだろ。それいったら女テニだって……」
夫婦感が半端ないやり取りを聞きながら、毎日思うこと。
………正直、廊下の真ん中でやらないで欲しいんだが……