それから暫く物陰から痴話喧嘩を観戦していたのだが、いつの間にか男バスと女テニの部員が総動員して部活同士の戦いにまで発展していた。まあこれも恒例のことなのだが。
しかし途中参戦してくる副キャプテン同士とその他数十名がデキてるという事実があるため、最早大人数でイチャついているようにしか見えない。彼氏いない歴=年齢の私は、たまたま強風が吹いて男バス全員のズボンがずり下がり女テニにドン引きされるところを想像して心を鎮めることしかできなかった。
「いや〜毎度毎度よくやるっすね〜」
「もう、恥ずかしくて見てられないですわ!」
「まあまあ、ああいう風でしか愛を表現できない人達もいるんだ……それをどう受け止めるかは、私達次第だよ★Hahaha!」
「な、永水の手によって壁が破壊されている!!町田止めろ!こいつ止めろ!!ついでにリア充は滅べ!」
いつの間に部員全員が集い、揃って足止めを食らっていた。さながら、デ●ズニーの100分待ちアトラクションで前に並んでるケンカップルを見ている気分なのだろう。恋人のいない私達は、思い思いに言いたいことを口に出していた。僻みじゃないったらない。
「……てかさ!こんなとこで時間食ってる場合じゃないだろ!このまま部活できなかったら厄介だぞ。もう部室もあんなんなのに……」
「「「「うっ……」」」」
この5人の中で一番オカンな山崎が、一番つついてほしくないところを容赦なくつついた。流石オカン。まあ、事実だから仕方ないんだけど……。
既に殴る蹴るの暴力沙汰になっている戦場の向こうで、私達合唱部の部室、もとい物置小屋がある。
かれこれ5年ほど、この名ばかりの合唱部は活動といった活動をしてこなかったらしい。私達の部活がこの薄汚い物置小屋になったのは、それによって部員が深刻なほど減少したことともう1つ。この学園はもとから部活動が盛んで、未だに新たな部活動が次々と進出している。その為、活動をしない部活に残り少ない空き教室を明け渡すよりはまだ別の部活に使わせた方が良いと判断した校長が、2年前に合唱部の部室をここに移したからだそうだ。
「いや〜、校長も酷いことするわな。たまたまとはいえ、意欲のある新入生が入った年に部室を移すなんてさ」
宮部の言葉で、ふと思い出す。入学式初日に入部届けを提出した私達を待っていたのはゴミ捨て場と化していた物置小屋だったこと。
そう、部室を移動させられたのは、丁度私達が入部した時のことだったのだ。
今や、廃部寸前というところをギリギリこの5人で守っているという状態だ。しかしながら、ロクな顧問も指導者もいない私たちは大会にも出場できないし。取り敢えず、毎日頑張っていますよーという誠意をアピールして廃部を免れている状態なので、全員の毎日の部活参加は必須なのだ。
それなのに、こんな所で部員全員が溜まっていると教師に見られたら……終いである。もう廃部だ。
「仕方ない、素通りで行くか……」
「ああ……」
5人全員が、渋々腰を上げた時のことだった。
「どわああああああああ!!!………って、町田!!」
廊下を勢いよく転がってきた榛名君と、私の目が合ったのは。