不毛な恋を、してしまった。
どれほど願っても、どうしてもと神に縋ったとしても、きっと叶いはしない無謀な恋を。
「おいパツキン!酒もってこい酒!!」
あ、もう夕飯食べ始めてるんだ_____玄関の扉を開けた途端に共有スペースから聞こえてきた黒曜の怒鳴り声、そしてみんなの楽しそうな笑い声に、びっくりすると共に思わず肩を落としてしまう。
あーあ。今日もあの輪の中には入れない、か。
_____ボロボロの“あの子”がここの扉を叩いたあの嵐の日から、もう半年が過ぎていた。
私の居場所は、もうここにはないのかもしれなかった。
「ただいま……」
どうせ誰にも聞かれることはないのに。言った直後に自分で思ってちょっと凹んでしまう。
気付かれないようにそーっと敷居を跨ぎ、自室へと繋がる階段を急い駆け上がる。……本当は“気付かれないため”という建前のもとこれ以上彼らと笑い合う“あの子”の姿を見たくないだけの醜い私だって、ここにいるのだが。
(もう、今日は早く寝よう)
疲れているのだきっと。風呂は明日にして、取り敢えず今日は睡眠を取らねばーーと、扉を閉める直前。
「エリナぁ、おかわりー!」
耳に届いたアザミの声に、思わず足を止めてしまう。
『ユギ、おかわり!』
なんて、以前はよく言われたっけか。
夕飯の度に毎回毎回おかわりをせびるアザミに、お腹壊すよ!なんて言いながら大盛りの白米を差し出す。太陽のように顔を綻ばせて見せるアザミが可愛くて可愛くて、ついついあげすぎてしまうのは私の悪いところ。
……でも、今はもうそんなことはないのだ。アザミがあの向日葵のような笑顔を見せるのは、私ではなく“あの子”なのだから。
「やめなよ黒曜にアザミ、エリナだって疲れてるんだ……エリナ、ここは俺がやっとくから」
「うーー……お前らうるさい……」
「そんな……ミモザさんの方がお疲れですのに。それと外郎さん布団で寝てください…」
「エリナ、俺も手伝うから」
「……」
これ以上彼らの話を聞いていられなかった私は、部屋に駆け込んですぐにベッドにうずくまって枕に顔を埋めた。
そう。私がいなくたって、黒曜は口が悪くて、アザミは馬鹿で。紳士なミモザと面倒臭がりな外郎、そして優しい桐。
つい最近まであの中には私もいたのに……今となってはまるで空気のような扱いだ。いや、空気の方がまだマシか。“あの子”だけが彼らにとって必要なものとなった今、私は彼らの生命活動を助ける酸素なんかよりもずっとずっとちっぽけな存在だった。
嫉妬するのはカッコ悪くて、でも1人でいることも辛くて。
(このまま、彼らは私のことを忘れ去っていってしまうのだろうか…)
暗がりにある自分の指先が、徐々に霞んでいく。
彼らはきっと、“あの子”だけを見つめて、“あの子”だけを愛して。
愛を知らなかった彼女が本当に幸せになる頃には、彼らの中に“ユギ”という存在はもうないのだろう。
笑い合う“あの子”と彼ら。周囲にも祝福された、幸せな6人。
「……一番いい終わり方のはず、なんだけどなぁ……」
なぜだろう。虚しさと悔しさだけが胸を占めるのは。
……そんな安易に思い浮かんでしまう未来を考えて、私は今日も1人涙を零すのだ。
「神様……」