もやしの僕を外につれ出してくれた人が居た。
名前も年齢も知らないけど、その子は優しく土の中から僕を救い出してくれた。
初めて日に当たった僕は、その眩しさと圧倒的な力に気持ちが悪くなった。初めて感じたねっとりとした熱気に、息が詰まりそうになった。
「大丈夫?」
その子は優しく問い掛けてくれた。
何て答えればいいのか分からない。カイワレの君にはもやしの僕の気持ちなんて分からないだろう、と内心腹が立っていたけど、何故か別の言葉が出てきた。
「こんなに優しく接してもらったのは初めてだったので、驚いただけです」
自分でもびっくりだ、まさかこんな言葉が出てくるなんて。
不意に出てきたってことは、少なからずそう思っていたってことなのか。
確かに助け出してもらったのは初めてだったし、日の光を浴びたのも初めてだ。
「あなた、今までどれだけ見捨てられてきたの?」
「分からない。けど、母さんも父さんも顔を覚えていないし、引き取ってくれた親戚には……」
何話してんだ。頭が混乱してるのか。
「その怪我、その人に?」
「……どうだかね」
一生背負い続けることになった怪我も、今では土に潜り込んでいた言い訳に出来るからいいんだけどね。
「悲しいひとだね」
その子は泣きながら言った。
他人事で泣ける人が居るんだ。
「きみもきっと、カイワレになれるよ。
人の優しさに触れていけば、土の外でも生きられるようになる」
「優しさ?」
「きみ、今までずっとひきこもってたんでしょ。だから人の優しさを知らないまま、人の醜い部分しか知らない人生を送っていたの。
でも大丈夫、きっとこれからは__」
幸せなカイワレになれるよ。
-end-