今より語られるまでは、そこに住まう者達の他には誰も知らぬ世界。剣と魔法、人や怪物、妖精や神々の住まうファンタジーの世界である。
その中で、山頂と谷底にそれぞれ座した二つの地の間で今、戦火が上がろうとしていた。
雲を衝く山頂は、長命と知の種族エルフの住まう地である。不可思議な魔法と、男女老若男女を問わない美しい容姿はエルフ族の特徴であった。争いを好まず力業を苦手とするも、刺剣と弓を用いた流麗な戦いは十分に戦力と呼ぶべくものである。
一方、冥府に地続きとすら噂される谷底には、屈強と剛力の種族オークの地があった。恐怖的な容貌と暴力性から、蛮族と悪名高いオーク族の中でも、一際残虐で知られる一党が集まるそれは半ば集落の様相を呈していた。
かように価値観の異なる二大勢力の間には緊張が常に付きまとった。
【続く】