水夫は急に心臓が止まったみたいになった。鬼の話を聞いているうちに、魂の記憶が蘇った
のである。
水夫には見えた。九九九人の自分が。それぞれ、悪くない人生を送っていた。ある人生では、
お金持ちになった。ある人生では、立派に悟りを開いた僧だった。ある人生では、田舎でこじんまりと、
幸福に暮らしていた。
しかし、どういうわけか、どの人生でも、最後にこの湖にくることになり、鬼が現れて、この湖に突き落とされる
ことになるのである。
「そして、今度も、俺を殺すのか……」
老水夫は、やや観念したように言った。