虹の写生文
「ちょっくら、ライフを削ってくるか……」
とお父様は、いつものように言われました。いつものような格好で、出て行くので、てっきり私は、いつものように夜になったら帰ってくるのかと思っていました。しかしそれきり、帰ってこなかったのです。
ライフを削る……私の村からは、猫捨て山、と呼ばれている大きな山(なんで猫捨て山、と呼ばれているのかは、また後で触れます)が東の方に見えるのですが、そこに住んでいるアラキメロという精霊に魂を齧らせると、お金をくれる。お父様は、そのお金を持って帰ってくる……このことを、私たちの村では、「ライフを削る」という言い方をするのでした。
「お母様、お父様はいつ帰ってくるのですか」
と、夕ご飯の粥を食べながら、私は聞いてみました。
ところが、お母様は無視をするのです。お母様は、私の言うことを、無視したことは今までに一度もありませんでした。しかし、一番無視されたくない質問に限って、お母様は聞こえてないかのように、ただ粥をすするだけなのです。
私は質問をするのをやめました。あきらめたのではなく、ただ、その場の「空気」が、恐喝のように私の口を押さえつけました。