「なに見てんの、キモ」
彼がそう一言呟けば、その取り巻きがクスクスと私を嘲笑う。
かわいそうに。あんたみたいなやつは、こうして“彼”の目に止まれただけでも良かったね。___そんな罵詈雑言を、この胸糞悪い笑い声が雄弁に語っているようだ。
「なんかいつも見てるよなこいつ!!あ、もしかして英輔好きなの??」
「え、キモい」
取り巻きの1人の言葉に、周囲がさらに喚き立てる。
「……なんで」
なんで。なんでそんなこと言うんだろうか。
あなたしか、私を愛してくれなかったのに。
私には、あなたしかいないのに。
_____どうしてあなたはこんなにも容易く、私の手を振りほどいて行ってしまうんだろう。
“アオ★ふら 山野すみれ 『愛する人を見つけた』引退を表明”
「すみれ゛ぇええええええええ!!!!!ず、ずみれぇええ!!」
国民的アイドルグループ『あおいろ★フラワー』のメンバーであり、私の“推し花”である山野すみれちゃん………アイドルには珍しい奥二重ののっぺり顔なのに、なぜか愛くるしいすみれちゃん………
「どこの馬の骨だ!!!成敗しちゃるー!!!!……でもすみれの悲しむ顔は見たくないよ゛おおおおおおぉおおお!!!」
なんていうジレンマ!!ちくしょう苦しい!!!
「俺百合香推しなんだよね」
「あたしローズかな」
「僕も薔薇推し」
正直すみれ地味じゃね?だの儚い可愛さだの言うこの薔薇百合厨どもは可憐で慎ましやかなすみれの良さを全くわかっていない。確かにお目目ぱっちりな百合香は可愛いしダイナマイトボディなローズはセクシーだけれども!!!贅沢なものばっか見てるといつか傲慢きちになるんやで!
「なになに……『今まで私が咲きづけられたのは、野山の向こうまで水を与えに来てくれた花農家がいたから。私が収穫されても、みんなの種子が私の心にまた花を咲かせるわ』……ってずみれぇええ!!私のハートの中にも、すみれ色の花弁がいつまでも舞い続けるよぉおおお!!」
「最後まで何言ってるか分かんなかったわ」
「それが野山すみれだろ」
新聞紙に顔面を押し付けおいおい泣きじゃくっていると、「てゆーかさ」と恵奈に肩を叩かれる。
「さっきヤンキーズになんか言われてたでしょ。無視して大丈夫なの?」
あ、すっかり忘れてたわ。
でも弁解させてもらうとね、私決してガン飛ばしてたわけじゃないのよ。さっき突然廊下からきゃー!って叫び声が聞こえて、何事やねんと思って見たらその手前側にいるヤンキーズに「見んなキモい」って………
「別にお前ら見てたわけじゃないんだよなぁ〜自意識過剰乙」
「こら柚季!声が大きいでしょうよ!!」
聞こえたらどうすんの!!と私の頭を叩くけれど一番声がでかいのは間違いなくお前だぜ実里!!
「そうだぞ三波!!お前が御幸英輔なんて眼中にないしむしろしねって思ってることが本人にバレたらてめえ、打ち首だけじゃ済まされねえぞ!!!!」
「だからてめえも声がでけえんだよ清成!!!!」
そんなこんなでぎゃいぎゃい騒いでいると、いつの間にか始業の鐘がなっていたらしく突然入ってきた古典の佐藤に4人揃って廊下に立たされた。ちなみになぜか私だけバケツを持たされたよ!!