4月6日 始業式
「ねぇねぇ、ウチと友達にならない?」
始業式も終わり、最上級生になった私。
初めての、6年2組での休み時間。
そんな時、ふと、自己紹介で1番目立ってた女子――滑守いよか――のめす いよか――さんが話し掛けてきた。
「ウチね、このクラス全員と仲良くしたいの。えっと……たそがれサンだっけ?」
そう、私の名前は黄昏渡話呼――たそがれ、とわこ。
黄昏、なんて苗字、余り聞かないし、ましてや"とわこ"なんて今時珍しい。
特に、この漢字。
渡って話して呼ぶ……どのような意味が込められているのだろうか、って自分でも気になっちゃう。
黄昏渡話呼、なんて名前は同い年の子に読んでもらえず、自己紹介でもあまり覚えてくれないのだ。
でも、覚えてくれていた滑守さん。
少し嬉しくなって、
「はい、黄昏渡話呼です。よろしくお願いします」
と笑って返事をしていた。
いつの間にか。
すると滑守さんは、
「うん、よろ!ウチのこと、"すいか"って呼んでね!」
と笑い返してくれた。
でも、なんですいか………?
「あ、ウチの名前、滑守のス、いよかのイとカで、すいか!」
と、察した滑守さんが教えてくれた。
―彼女、向日葵みたい。太陽に向かって咲き、沢山の種子を残す向日葵。でも、夏の間しか咲かない向日葵―――――
「黄昏サンのことは……うーん、タソトワって呼んでいい?」
ゲッ。あだ名……私、あまり好きじゃない。
嫌いではないの。
でも、"渡話呼"って呼んでほしい。
でも、言いづらいしな……。
滑守さんの向日葵が、より輝きを放った気がした。
えっ、と………
「渡話呼って可愛い名前だよね!渡話呼って呼んであげようよ!」
さっと後ろを向くと、ショートカットの高身長の女の子が立っていた。
「あこ……」
滑守さんに"あこ"と呼ばれたその子は、
「よろしく!渡話呼!」
と笑ってくれた。
「アタシ朝先心野!あささきの"あ"と、ここのの"こ"で、あこ!よろしくね!」
「はい……よろしく。お願いします」
つい、よろしく、と言ってしまいそうになって、慌てて付け足す。
「なんで敬語?タメでいいのに!」
あこちゃんがそう言ってくれたので、私は言った。
「じゃ、あこちゃん、よろしく!」
しかし、それを不服そうに見ていた滑守さん。
「ウチにもタメにしてよ?あと、渡話呼って呼ぶから、すいかって呼んで。じゃね!」
そして、スタスタ行ってしまった。
なんだったんだろう。
「あ、授業始まる。じゃ!」
あこちゃんは手を軽く振って、自分の席に戻っていった。
のめ……すいかちゃんと、あこちゃん。
なぜかあだ名呼びをためらってしまうすいかちゃん。
たった今少し話しただけなのに、心が暖かくなる、誰にでも平等な雰囲気のあこちゃん。
教室は、さっき見たときよりも綺麗になっていた。
春の長雨が来ていないため、まだ咲いている桜。
しかし、その数は減り続けている。
はらはらと休みなく散るその姿は、入学式を終えた学校から去っていく何かのようだ。
梅はとうに散っている。
5年生の時にみた梅の花は、もう戻って来ないようだ。
しかし、6年生のタンポポはやって来たらしい。
私は今、あこちゃんと一緒に帰路についている。