そのとき,俺は天啓を得た.
家を出よう.そして,誰にも見つからず,ひっそりと暮らして,それとなく他人を助けて,無関係に死ぬ.それが,自分なのだ.あの医者は起源だの,未来だの賜っていたがそんなのくそくらえだ.
俺は,何枚かの上着と下着を生徒鞄に詰め込むと部屋を出た.
両親には一筆したためようと思ったが,感謝の言葉を今更つらつら並べたところで,意味のないように思われた.だから,率直な気持ちを伝えた..
『生まれてきて,ごめんなさい』
我ながら自分勝手だと思った.だけど,本心からだった.『でも,お父さんとお母さんのおかげで,楽しかったです.お父さんと,お母さんは楽しかったですか?
自分は,そうは思えませんでした.せっかくお金を貯めて学校に入れてくれたのに,俺は途中退学しました.それまでの,二人のあらゆる期待を裏切りました.
それなのに,楽しいと答えてくれることを期待している自分を消し去りたいのです.
さようなら.どうか,俺のことは忘れて下さい.そして,今まで不幸だった分を取り戻してください』
なんて,女々しい.だけど,これが曝け出した自分なのだと,自信が持てた.
くしゃくしゃの手紙を,部屋に放り込んだ.
木片を不在にしておけば,いくらか時間稼ぎになるだろう.
予想される未来に反して,久しぶりに清々とした晴れやかな気分になった.
これは自暴自棄というやつだと理性的な部分が囁いたが,やれ悲しいかな.俺は絶望などしていなかった.