*朝方の夢は希望を乗せて空を飛ぶ*
2.いつものことじゃん
「霖」
母が霖の向かいに座る。話があるの、と口を開く。次に母の口から出てくる言葉を霖は当てられる自信がある。
「お願いがあるの」
ほらきた。やっぱりね、と心の中で呟き母にバレないようにこっそり息を吐き出す。いつものパターンだ。この台詞、この雰囲気、そして母のこの顔。申し訳無さそうな、自分の顔色を伺っているような顔。唇を噛み、時々開きかけ言い出しづらいのか、またすぐに口を真一文字にする。何を考えているのか時々右上辺りを目でみてはまたすぐにこちらを見る。私が怒り、泣き喚き、不満を叫ぶところでも想像しているのだろうか。はあ。本日二度目の吐息。まったく、この人は……だが、いつまでもこの状態でも仕方がない。
「なあに?」
と言って次の言葉を促す。すると、母は少しだけ吹っ切れたような笑顔を見せ、慌てて表情を引き締める。そして、母がこの顔をするときにもうお決まりとなってしまった一言。
「引っ越しをしようと思うんだけど、いいかな?」