(3)
俺がこの村に来てから一ヶ月になる。小さな小屋に住む地主様なわけだが、村長の使い走りとして色々動いていた。
そして今日も使い走りの件で呼び出されていたのである。しかも、とても面倒な案件だ。
「クロイン君。これを州政府に届けて貰いたい」
「何ですかこれは? 」
俺は村長(厳密に言うと郡長を兼務)から、書類を渡された。一体の何の書類は何なのだろうか?
「請願書だ。私ら原住民には選挙権が制限されているからね。他の村の村長の署名もある」
彼ら原住民は選挙権は制限されている。
西プライン州の南方一帯の『南方郡』には原住民達の村が複数ある。これら村と郡(ここでは南方郡のこと)に関する選挙権については彼らは有するのだが、州知事選挙や州議会選挙、合州国議会選挙や合州国大統領選挙に対する選挙権を彼らは有していないのであった。
「無論、クロイン君をただの青年として送り出すわけではないよ。君には今回は郡議会の特使として州政府にこれを届けてもらいたい」
そして村長は俺はもう一通の書類を手渡しされた。
「これは君が郡議会の特使であることを証する書類だ」
「特使って・・・・・・」
どうも俺は政治闘争に巻き込まれたようだ。
とても嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか?
権利を求めて闘って暗殺された人は五万と居る。それもこの合州国でだ。最近は色々な権利を求める無名の闘士までもが次々と行方を暗ましているとの話しである。俺自身の身の安全が心配だ。
ただ・・・・・・縁談をすっぽかして故郷から夢の生活を求めてこの合州国へ来たのだ。このまま故郷へ帰るのも癪に触る。闘って死ぬのも悪くないかもしれないな。或いは真実を暴くの面白いかもしれない。
そして、村長が懐からお札を取り出して、
「今回の特使としての報酬は、5万でどうだ? 旅費も含めてだが、手取りは十分あるだろ? 」
とのことだ。
おっと、報酬もくれるって? 何だよそれを先に言いなよ村長さん。
俺はこれで生活の足しになりそうだ。
「僕に行かせてください」
「おう。頼んだぞ」
こうして俺は半ば金のため、西プライン州政府へ殴り込みに・・・・・・いや、書類を届けに向かうことになったのである。
そして、村からは駅までは、村の青年に馬車で送ってもらうことにした。
「郡議会の特使だそうだな」
「今回、州政府へ行くことになってね。選挙権の話しだよ」
原住民にとっては選挙権の話しは大きいのだろう。選挙権がなければ国民として認めてもらえないのと同じだ。元々は彼らが古来ここに住んでいたわけで、筋として彼らにも選挙権を与えるべきだと俺も内心思っている。
「その話か。俺は普通に生活出来て、統治者が暴君みたいな奴じゃなきゃそれで良いのだがな」
確かに合州国では都市部の不労者となるときついかもしれないが、選挙権が無くとも普通に生活は出来きるだろう。原住民であろうとも、その個人は私権の主体としては認められている。つまり、商売で成功して資産家になるチャンスはあるのだ。
それはともかく、村長が大統領を目指していると聞くのは初耳だった。
「村長はやりすぎだ。あれだと暗殺されるよ。政府の野郎共に」
「・・・・・・暗殺ねぇ」
さっき俺がそんな目に合うかもしれないと、思っていた。
「最近では同性愛者支援党だっけ? そこの党首が死んだらしいよ。お前がこの間持ってきた新聞の一面に掲載されてたさ。で、暗殺らしい」
同姓愛者は数多くの人から嫌われており、政治家たちの多くからも批判を浴びていたことは俺も知っている。そういう背景もあることから過激派が出没し、党首を殺したのかもしれない。
「党首自身も合州国議会の議員だったらしいし、やっぱり政府は誰にでも手を出せるわけだな」
「でもまあ、本当に暗殺されたとは限らないじゃないか」
「新聞によれば、逮捕された容疑者が政府からの指示で殺したとかと言ったとか書いてあったけどな」
・・・・・・マスコミを鵜呑みするのも如何なものと思うけど、まあいいか!