夏休みが終わってしまったというのに、剣山学園の生徒達はこの日を待っていたかのように目を輝かせて登校してきた。
それもそのはず、夏休み中も人気が衰えることはなかったチェニーに会うことが出来るのだ。ネットの世界の人気者と一緒に勉強をするなんてことはそうそう出来ない事だろう。
ざわつく校内の、特にざわついている教室――2年2組の教室の戸が開いた。
騒然としていた教室は一気に静まり返り、全ての生徒が自分の席についた。
「えー、もう知っていると思うが、転入生が来ている。」
気怠そうな男性教師の声に、静まり返っていた教室内が再び歓声の海になる。
「静かに!
入れ、清水」
「……やあ」
教室に入ってきたのは、極端に背が低い少女だった。
黒髪のショートカットは手入れがされていなくあらゆる方向に跳ねており、左眼には眼帯が着けてある。更に右頬に傷の縫い跡、鼻にはファンシーなイラスト入りの絆創膏、左手首に包帯が巻かれている。
「会いたかったよ、僕が征服した地球の中にある学校という学ぶ場に通っている中の2年生の2組の41人の生徒達――あれ、今日は何人が欠席してるんだ?まあいい。」
少女は不敵な笑みを浮かべながら、一息に叫んだ。
「僕の名前は清水チユリ。これは人間界での仮の名なんだ。
本名はみんなが知ってる通り、“チェニー”だ。
チェニーだからチエリにしようと思ったんだが、カタカナが上手くかけなくてチユリになっちゃったんだ。
でもまあ、可愛い名前だろ?間違えたにしてはな。
ふふ、僕は失敗さえも成功に導くことが出来る、選ばれた者だからね」
チユリはチョークを手に取って、黒板にらくがきをし始めた。
教師も生徒もあんぐりと口を開けて傍観している間に、チユリはらくがを終えてしまった。デカデカと描かれたのは、魔法陣のようなものだった。
「これが僕が住処にしている洞窟に行くための魔法陣だ。来るのは自由だけど、帰るための魔法陣はないから、やる時は自己責任でやりなよ。
それから、ネットでこれを拡散するのもダメだ。このクラスの41人だけの秘密。あ、先生も居たか。
とりあえず、よろしくね」
チユリはにんまりと笑ってから、窓際の1番後ろの席に腰掛けた。