パパが帰ってきて、ママのことをパパに伝えた。
おばあちゃんはすぐ納得。
ママは和泉家…結婚する前の産まれた家に帰ってしまった。
離婚じゃなくて、別居状態。
生き抜くために。
「悲しかったな、美海。お母さんはママにあんまり会うなって言ってるんだろ?パパがいるから大丈夫」
そう、だよね。
ママがいなくても、パパがいるから大丈夫だよね、きっと。
「こんなことを言ったけど、パパ、休みが取れないんだ。明日もひとりになっちゃう。大丈夫そうか?」
「うん、大丈夫だよ。宿題とかあるから、やらなきゃだし」
これでいいんだ。
考えすぎると、泣きそうだし。
ママが決めたことだし、ママが幸せになるためなんだもん。
「おやすみなさい、パパ」
「ねえ、美海」
パパに呼ばれて振り返る。
優しい目で微笑んで、首を横に振る。
「おやすみ。美海」
ザーザーと降る雨。
別館の、一番狭い部屋へ入る。
私が外した小窓、直って良かった。
小窓を開けて、隣の家を盗み見る。
…あ、来雅勉強している!
「美海?」
「そうだよ!おはよう、来雅!」
来雅は、私の幼なじみ。
本名は冴橋来雅。
隣の家で、別館の一番狭いこの部屋のちょっと上が来雅の部屋。
「来雅の家さ、お母さん今いる?」
来雅は首を横に振る。
じゃあ、来てよ。
ちょっとひとりは寂しいから。
来雅を本館に呼んだ。
なぜか、来雅のお母さんは私のことが嫌いみたいで、関わると叱られるの。
だけどいいよね。
唯一、ひとりの幼なじみだもん!
「美海ー、来たぞー」
「来雅!」
もう来たんだ。
さすが、来雅だね。
来雅の好きな紅茶を出して、広いリビングの机の上に宿題を広げる。
「宿題やってたんでしょ?教えて!」
「ああ」
来雅は頭が良いから、宿題とかも難なくやっちゃう。
そんな来雅に比べると、私って全然出来ないんだけど…。
「おーい、美海」
「あ、ごめんごめん」
私は、紅茶の乗ったお盆を持ってキッチンからリビングへ向かった。