序章
わたしたちの国は、戦争に、負けた。
隣邦の圧勝であった。わたしたちはなす術もなく、ただ茫然と国が滅んでいくのを見ているだけだった。
発端はいまいち判然としていない。
それぞれの国がよく肥えた土地と豊富な水をもつ。国交は極めて良好で、新しい技術を得れば共有していたほどなので、文化も、宗教も、経済力も似通っていた。
なのに、なぜ、このようなことが起こってしまったのか。
なぜ、葉が紅く色好き始めたあの秋の日、うっすらと霧が立ち込めていたあの朝、やけに静かだったあの時、隣邦は攻めてきたのか。
そのときはまだ、知るはずもなかった。