からん、と軽い音を立てて近場のファミリーレストランの戸を開ける。防犯カメラだとか、目撃情報だとか、そんなものはどうでもよかった。
程なくして女性の店員がやって来る。この早朝に子連れなど、変だと思われなかっただろうか。
「何食べたい?」
「あ…えっと、あの…」
店のメニュー表を見せてやると、分かりやすいほどにたじろいだ。困ったように眉を下げて、まるで自分の意見がないみたいに。
その様子に憐みの目を向けて、少しだけ泣きたくなったけれども、その感情を笑みに昇華させてまた問いかける。優しく、傷つけないように、花に触れるように。そうでもしないと、この子は何も言ってはくれない。
「…これ」
その年にしては小さい指で、メニューにあるハンバーグを指した。朝からハンバーグ。なかなか厳しいものがあるけれども、これもこの子のためだと考える。食べたいのだから、この子を優先してやる必要があるのだ。これは、親の、義務なのだ。
「いいよ。一緒に、食べよっか」
うん、と微かに聞こえた。俯いていて顔は見えない。ああ、いつか、この子が人の顔を見て笑うことができれば。