それから3時間ほど経ったであろうか?
列車は途中駅に止まった。特に何だと言う話では無いが、私の相席に金髪の女性が座った。その女性は服装は庶民とさほど変わらないものの、そのしぐさの1つ1つが、とてもお上品だったのだ。
そして、その女性は私に声をかけてきた。
「貴方はどこへ行くの? 」
「私ですか?・・・・・・私はロンドークへ向かっているのですよ」
と私は答えた。
「あら、この時期は大変だと思うわよ」
「えっ? 」
「最近、国外への亡命をする者が増えて、ほとんどの国境検問所で厳重に本人確認が為されているのよ」
と、私に言う。
だが、この女性が言うことが本当であるならば、とんでもないことである。私はさらに詳しく聞くことにした。
「厳重と言うと・・・・・・具体的にどう言う確認がされるのでしょうか」
「具体的・・・・・・確か、査証が本物か贋物かを確認するために、査証の識別番号を外務省に問い合わせると聞いてるわ」
ああ、これはまずい。
今、私が所持している査証は2つある。1つはゲルマニ市にあるマジノランド共和国の大使館で発行してもった亡命用査証である。見た目はほとんどプロエルン連合帝国発行の査証と同じだが、その査証に書かれている識別番号が大問題のなのだ。私の所持する査証には、マジノランド共和国が亡命者用に振り当てた番号が記されておりこの識別番号は、当然外務省には登録されていない。つまり、問い合わせがされたら私は、捕まってしまうだろう。もう一つは、プロエルン連合帝国発行の本物の査証である。しかし、こちらも識別番号を確認されたら、すぐに私の正体が分かってしまう。
それはともかくだ。
私は、今までそんな話は今まで聞いたことが無かった。もしかしたら、この女性の勘違いなのではないかと、まだ希望の余地はあるかに思えた。
「まあ、貴方も昨日中に出発していれば、国境はスムーズに越えられたのに。残念なことに今日から一斉に実施されるのよ」
よりにもよって今日なのか?
まさか私の国外逃亡がそれほど重大な事件だったのだろうか? 一瞬私はそう考えてしまった。確かに私は皇帝を侮辱した罪の疑いがかけられているが、正直なところ、皇帝侮辱罪の疑いがかけられている者は意外と多いのだ。例えば、本を出版したところ、その内容が皇帝を侮辱したと認定された者も多々いる。よって帝国当局が、私を血眼になるほどに追いかけることは無いはずだ。
「念のために聞きますけれど、本当の話なんですか」
「嘘かどうか、国境まで行けばわかるわ」