「ここは、お客さんの贅肉を取るサロンであり、それをご自身で召し上がっていただく食事処さ」
自分の贅肉を取って、それを食べる?聞いたことのない話だ、怪しすぎる。しかし……主婦は自分のだらしないお腹に視線を移した。この贅肉を取ることができるなら……それは彼女が何度も夢見てきたことだった。
「それじゃあ、いただこうかしら」
毎度あり、と店主はまた不気味に笑い、主婦を暖簾のかかった奥の部屋へ連れていった。部屋は病院の手術室によく似ていた。主婦は手術台のようなところへ寝かされ、麻酔を打たれる。やがてだんだんと瞼が重くなってきた。
「お客さん、ご注文の料理ができましたよ」
そんな枯れた声で目が覚めると、未だニヤついている店主の顔が視界を占領する。と同時に、独特の匂いが彼女の鼻孔を刺激した。これが人肉の匂いなのね、と考えた後、主婦は思い出したように自分のお腹を見た。そこに、今まで彼女を蝕み続けていた脂肪の塊はなかった。彼女は思わず目を見開き、これ以上ないほどに口角をつり上げた。
彼女は、店主に連れられるがままに、さらに奥にある食事スペースへ来た。座らせられたテーブルには、既に料理が置かれていた。見た目は普通の、牛肉のステーキといったところだろうか。それを普段のようにカトラリーで切り分け、口に含む。噛んだ瞬間、グニョ、とした食感に、若干羊肉のような風味が広がり、異常な量の肉汁と脂が溢れる。想像していたよりかは美味であったそれを、主婦は黙々と食べ続けた。しかし、やはり贅肉である分そのしつこい程の脂っこさは気になっていた。