Confiserie de sucre

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3:響◆Odo:2018/04/15(日) 23:06

【余命】
余命があと半年。
生きるとか死ぬとか、そんなことを意識せずに15年間生きてきたものだから、告げられた言葉の重みで押し潰されそうな気分だった。
窓の外では鳥がのんきに歌っている。
いつもなら可愛いと、そんなふうに笑っていた光景が、今日はとにかく恨めしくなった。
今日は人の気も知らずに、なんて八つ当たりをしたいと思った。
今日も相変わらずで、わたしは1人、白いベッドに横たわっている。
日を追うごとに痩せていく感覚。
だんだん起きていられる時間が短くなっているという自覚。
そして、最愛の人の顔、声、匂いがどんどん分からなくなる恐怖。
そんなものに精神を侵されていく毎日

ようやくこんな生活から解放されるのだと思って、乾いた笑いが口から洩れる。
なおも歌い続けていた鳥を横目に、静かに目を閉じようとした。
閉じようとしたそのとき、わたしの病室のドアが音を立てた。
眠りにつくことを邪魔されてしまった、と不服ながらもそちらに目を向ける。
濡烏色の髪を揺らしながら、わたしを見て微笑む彼女がいた。
その表情は慈愛に満ちていて、愛しいと、ただそう感じられた。
彼女の薄紅色に染まった唇が開きかけて、結ばれた。
「……あのね」
伝えなければと思った。
彼女はわたしの目を見たあと、すこし寂しそうな表情を浮かべる。
そっと彼女の頬に手を添える。
彼女の高い体温が伝わって、安心した。
「ごめんなさい」
「え……」
謝られる心当たりなんてないとばかりに、彼女は大きな瞳を開いた。
「わたしは、もう、あとすこしで……すこし、で」
「すこしで……」
言葉を紡ぐことがこうも上手くいかないなんて。
大切な人に何かを伝えることがどれだけ苦しいことか、この期に及んで思い知るなんて。
でも彼女は読み取ってくれたのかもしれない。
「はん、とし……」
わたしにはこれを伝えることが精一杯だった。
彼女はわたしの手にそっと自らの手を重ねて、ゆっくりと目を閉じる。
頬にはあたたかい液体が伝って、わたしの手を濡らしていった。
「そっか、もう……もう、長く、ないのね」
目を閉じたまま、彼女がゆったりと話し出す。
「わたしね、わたし……独りでなんて生きていけないよ」
彼女が言葉を探すあいだにも、わたしの瞼はどんどん重くなる。
鳥はもう、歌い終えていた。
機械の微かな音がする無機質な病室に、彼女の声が途切れ途切れに響いた。
「だから」
意識がどんどん遠くなる感覚。
「わたし」
頬に添えていた手に力が入らなくなる。
彼女の手は、そっとわたしの手を握った。
「わたしも、死ぬね」


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