【余命】
余命があと半年。
生きるとか死ぬとか、そんなことを意識せずに15年間生きてきたものだから、告げられた言葉の重みで押し潰されそうな気分だった。
窓の外では鳥がのんきに歌っている。
いつもなら可愛いと、そんなふうに笑っていた光景が、今日はとにかく恨めしくなった。
今日は人の気も知らずに、なんて八つ当たりをしたいと思った。
今日も相変わらずで、わたしは1人、白いベッドに横たわっている。
日を追うごとに痩せていく感覚。
だんだん起きていられる時間が短くなっているという自覚。
そして、最愛の人の顔、声、匂いがどんどん分からなくなる恐怖。
そんなものに精神を侵されていく毎日
。
ようやくこんな生活から解放されるのだと思って、乾いた笑いが口から洩れる。
なおも歌い続けていた鳥を横目に、静かに目を閉じようとした。
閉じようとしたそのとき、わたしの病室のドアが音を立てた。
眠りにつくことを邪魔されてしまった、と不服ながらもそちらに目を向ける。
濡烏色の髪を揺らしながら、わたしを見て微笑む彼女がいた。
その表情は慈愛に満ちていて、愛しいと、ただそう感じられた。
彼女の薄紅色に染まった唇が開きかけて、結ばれた。
「……あのね」
伝えなければと思った。
彼女はわたしの目を見たあと、すこし寂しそうな表情を浮かべる。
そっと彼女の頬に手を添える。
彼女の高い体温が伝わって、安心した。
「ごめんなさい」
「え……」
謝られる心当たりなんてないとばかりに、彼女は大きな瞳を開いた。
「わたしは、もう、あとすこしで……すこし、で」
「すこしで……」
言葉を紡ぐことがこうも上手くいかないなんて。
大切な人に何かを伝えることがどれだけ苦しいことか、この期に及んで思い知るなんて。
でも彼女は読み取ってくれたのかもしれない。
「はん、とし……」
わたしにはこれを伝えることが精一杯だった。
彼女はわたしの手にそっと自らの手を重ねて、ゆっくりと目を閉じる。
頬にはあたたかい液体が伝って、わたしの手を濡らしていった。
「そっか、もう……もう、長く、ないのね」
目を閉じたまま、彼女がゆったりと話し出す。
「わたしね、わたし……独りでなんて生きていけないよ」
彼女が言葉を探すあいだにも、わたしの瞼はどんどん重くなる。
鳥はもう、歌い終えていた。
機械の微かな音がする無機質な病室に、彼女の声が途切れ途切れに響いた。
「だから」
意識がどんどん遠くなる感覚。
「わたし」
頬に添えていた手に力が入らなくなる。
彼女の手は、そっとわたしの手を握った。
「わたしも、死ぬね」