(5)
「東沼様。どうか、魔王討伐にお力添えをしてはもらえないでしょうか」
ああ、やはり魔王討伐の件ですか。
「勇者のように素質があるわけでもない私が魔王討伐に参加しても、足手まといになるだけですよ」
魔王というのが、どんな奴なのかは知らないが精鋭騎士団が壊滅したと聞く。要は危険なお仕事をやってくれってことでしょ? 下手したら死ぬかもしれないじゃないか。
「何も直ぐに魔王討伐に向かうというわけではありません! まずは東沼様には騎士団に入団してもらい、一定期間訓練を為さって、それから魔王討伐へと向かうという流れになります」
いや、だからその騎士の精鋭の連中も壊滅したんでしょ?
この王女とやらは、何か魔王討伐以外の意図でもあって勧誘しているのであろうか。
「精鋭騎士団も壊滅したという話でありませんか。精鋭の騎士様たちでも敵わなかったととなると…………私ごときだと、さらに魔王討伐は難しいお話かと思われますよ? 」
「そ、そうですよね……確かに。ですが、私は貴方に同行して欲しいのです。お願いします! 」
わざわざ雑魚に同行して欲しいとなると、やはり何か別のところに意図があるのだろう。
「そうですか。どうしても私を魔王討伐に同行させたいようですが、どのような理由がってのことなのですかね? 」
「そ、それは……」
何だ? 言えないってか。
となると、ろくでもない意図があると……疑わざるおえないね。私を利用して何がしたいのだろうか。
いや、あえて今はこの話を利用させてもらおう。この王女の思惑が何なのかは知らないが、それが私に著しく不利益を負わせるようであれば、その時は逃げればよい。
そして、この第2王女が王宮内でどれほどの立ち位置かは判らない。王女と言っても名ばかりであって何も出来ないということも考えられる。しかし、執事のドナッド以外にも王宮とパイプを持っておくことは後々の利益になるかもしれないと私は考えた。
さて、早速私からも要望を伝えるとしよう。
「あまり、言いにくい理由ということですか。ただ私からもちょっとしたお願いがありましてね」
少しの間、沈黙は続き、
「わかりました。では、そのお願いについて、お話していただけませんか」
と王女は言ったのであった。
「その前に、まずルノア殿下自身は召喚についてはどの程度ご存知なのでしょうか? 」
私の要望と言うのは、とっとと王宮魔導士総長のマレックスと会いたいからなんとかならないか、というものだ。ただ、この第2王女が何かしら知っているかもしれないという期待も多少はあるのでまずはそう訊ねたのである。
「召喚……ですか。申し訳ありませんが、召喚については父上と王宮魔導士総長のマレックスのみしか、詳しい情報は知らないでしょう」
知らなかったのね。まあいいや。
「そうですか。では、今回の私の要望の話になるのですが、王宮魔導士総長のマレックス様と早急にお会いしたいのですが、ルノア殿下のお力添えでなんとかなりませんか? 」
「なるほど。かなり召喚について興味がおありのようですね。そういうことでしたら、私のほうで何とか調整させていただきます」
まあ、これで多少の期待はできるか。
「ルノア殿下。本当にありがとうございます。魔王討伐の件につきましては前向きに検討いたします」
そして、王女の誘いで私は馬車に乗せられ、また王宮へと向かった。よって、早ければ今日中にマレックスと会うことができる可能性が出てきたのである。