「はぁっ……。はぁ……ッ」
人目につかない校舎裏で息を荒げる私。
緊張しているからとはいえ絵面は完全に変態だった。
というかもうヘンタイでもいい!
今日この場所で先輩が私の望む答えさえ言ってくれれば、私は栄えての彼氏持ちぃッ!
今さら何を恐れるものがあろうか!
「さーて。先輩まだかな〜?」
猫なで声100%。普段絶対に出さないトーンの声で先輩を待っていると、
超至近距離から柔らかいハスキーボイスが響いた。
「ごめん。待った?」
「ひゃ、ヒャぃっ!」
ぞぞぞぞーっと首筋に寒気が走る。
またしても奇声を上げる私に対し、ソウマ先輩は私に歩み寄りながら優しく微笑む。
「さっそくだけど……その、一晩考えて……」
「は……はい……ッ!!」
ありがたい笑顔の後光に気圧されながら、私は固唾(かたず)をのんで先輩の解答を待つ。
元々期待していなかったとはいえ、ここまで来た以上、胸踊らずにはいられない。
期待と共にフラれる不安が膨らんでゆく私を、しかし先輩の言葉が打ち砕く。
「僕でよかったら……付き合ってもらえるかな?」
っしゃァああああああああああああぁッ!!
歓喜。ココロの中で妙に男じみた歓声を上げつつ拳を握り締める。
とにかく今まで感じたことのない幸福が私を満たす。
やった! これで、これでやっと私も彼氏持ち……。
長かった……長かったなぁ鮎河繭美(あゆかわ まゆみ)。
中学入学してからグロ系趣味のせいで周囲の女子からはキモいとハブられ、小学生までのノリで恥じらいの無い下ネタを連発した結果、男子から「女として終わっている」と笑われ、放課後になれば楽しそうにはしゃぐ同級生達の声をから逃げるように……ぼっち下校。
でも、そんな日々は今日で終わり。
『今までの私』というマユを破り、今日から私は大空へ羽ばたく……。
――要するに。
「先輩さえ手に入ればお前らなど『へ』でもないわァ……ッ!」
辛かった回想シーンの果て、ラスボス的なセリフを超小声で呟く私。
「あの。ちょっといいかな?」
それに気付いていないのか恥ずかしそうに声をかけてくる先輩。
「は、はい! 何でしょうか」
思考が危ない方向に行きかけたので、急いで脳を恋愛モードに切り替えた。