Fラン学生、王になる

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3:錦はがね:2018/06/15(金) 00:09

意識をしばらく手放していたらしい。
重い瞼を開くと、テレビの音量を上げていくように次第に喧騒が耳に入ってきた。

とある街のとある路地裏。
アスファルトのゴツゴツした感触を背中に受けながら、おもむろに起き上がる。

「ここ、は──?」

フラフラ覚束無い足取りで立ち上がり、路地裏から大通りを眺めた。

イタリアだかフランスだろうか、写真でしか見たことのないようなヨーロッパらしい町並み。
レンガ造りの建物、カラカラ音を立てながら走る馬車、どこまでも広がる灰色の石畳。
そして数々の露店や屋台が並び、見たことのない野菜やフルーツが山積みになって売られていた。

行き交う人々の服装は古く、貴婦人は幾重にも布が重なったドレスを身に纏って日傘を差し、男はコートに白タイツ、そしてブーツといった、ルネサンスを思わせるような身なりをしている。


そして恐ろしいことに俺は、なぜか懐かしい雰囲気を微かに感じ取ってしまったのだ。
こんな異国みたいな場所は知らないし、初めて目にする光景のはずなのに。
遠い昔に一度来たような──そんな不思議な錯覚に陥った。

とはいえ、俺は生まれてから一度も日本を出たことはないのでそれはありえない。

それに俺はつい先ほどまで、日本という国のとある県のとある市のとある地区のとある大学の研究室にいたはずだった。

誘拐?拉致?
ここはどこだ?イギリスフランスイタリアドイツ?
そもそもここまでどうやって?
飛行機?ヘリコプター?船か徒歩か?
さすがに徒歩はありえないにしても、俺の意識がない内に何かが起こったということは自明だ。

短絡した思考回路はさらに混沌を極め、ついにショートした。



やっとのことで思い出せたのはそう、幻想的な光を放つあの装置だった──。


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