再び意識が戻り、起き上がって辺りを見回す。
高原にいたはずの私は、いつの間にか小さな小川の傍に倒れていた。
これが―――――現実。
闇のように黒ずんでいた空は、真っ青な青空へと変わっていた。
私は特にすることもなく、ぼんやりと川の流れを見つめていた。
あの男がもう一度現れてくれたら、元の世界に帰してもらおう…
そう呑気に考えていた。
するとまるで私の心を読んだように、音もなく男が現れた。
心なしか、気分が少し弾んだ。淡い期待を抱きながら、私は男に話しかけた。
「ねえ、私を人間界に戻して」
私は男の答えを今か今かと待ち続けた。だがその期待も、希望の光も、次の瞬間には跡形もなく打ち砕かれてしまった。
「――――――残念ながら、それはできません」
「は…?」
男の言っている意味が分からなかった。
「なんで…どういう…こと?」
途切れ途切れになりながらも、必死で気持ちを落ち着けようとする。
「異世界に来たからには――――使命を果たさないと元の世界には戻れません」
「し、使命って…何?」
「………」
男は、何も答えない。言葉すら、発しない。
「…帰して…元の世界に…戻してよぉぉぉぉぉ!」
情緒不安定になった私は、泣きながら男に怒鳴った。
男は全く怯む様子もなく、静かに私を見ていた。
試すような、そんな瞳で。
「帰りたい…帰りたい…」
支離滅裂になりながらも、私は必死に訴えた。
男は相変わらずの不気味な笑みを浮かべ、一陣の風と共に消えていった。
「は、はは…」
元の世界にも戻れないという事実を知り、絶望した私は、もう笑うしかなかった。
異世界に連れてこられ、頼れる人もいない。仲間もいない。
それに………
私を愛してくれる人だって―――――いなかった。