まあ良い。此奴(こやつ)が何であろうが関係無い。
思い返せば私は急いていたのだ。
この路地裏の先、ニンゲン達が「コーエン」と呼ぶ場所で暖を取らねばならない。
猫(ビョウ)。詰まる所、我々ネコの格は段取り、まさしく暖取りにある。
最も良い場所、暖かい場所に陣取った者が王であるからして、これは至極重大な戦いであるのだ。
「ぐぁっ!」
目の前のニンゲンのような何か、ニンゲンモドキを躊躇(ちゅうちょ)なく威嚇し、突き進む私。
そうだ。お前などにかまっている時間は無い。
即刻道を開けい! ニンゲンといえど我が威嚇の意味、分からぬわけでは――
「だ〜う♪」
その時……。信じられぬことが起こった。
目の前のニンゲンモドキが、突如我が顔面を握り潰……あ痛い痛い痛い痛い!!
「あ〜! うぅ〜♪」
ぁ…ぁあ…貴様っ。私のツラを何だと思うて……もはや。
もはや我慢ならん……ッ!
私の知識欲を満たすため黙って観察しておったが、彼奴(きやつ)の悪辣外道ぶりは目に余る。
即時制裁。慈悲など無い。
私は爪を立て、無礼者に飛び掛かった。
一度目。運悪く爪を立てること叶わず、ニンゲンモドキの頬を引っ叩くだけに留まる。問題無い、二度目の攻撃に移ろうとしていたその時、ニンゲンモドキが真剣な表情で私を見ていることに気が付いた。
そう。先程までヘラヘラとなにやらご機嫌だったというのに、今の彼奴は大きく目を見開き、まるで私を見下すかのようにその場に立ちふさがっていたのだ!