私の尾っぽが嫌な気配に逆立つ。
数日前、ただ図体がデカイだけのゴミと舐めてかかった「ごーるでんれとりばー」とか言う西洋かぶれにボコボコにされたことを想起しかけるが、持ち前の精神力で持ち直した。
いかんいかん、尻尾が垂れかかっておるじゃぁないか。
弱気になってどうする。こういう窮地(きゅうち)こそ強気でいなければ――
「くしゅっ……」
「!?」
私は最初、彼奴がくしゃみをしたのかと思うた。
我らや犬の類もすることがある。理解の及ぶ行為だ。
しかし彼奴の顔を見た瞬間。そんな甘い考えは吹き飛んだ。
そこには仁王(におう)が居たのだ。
左様。あの寺やら神社やらにいる仁王だ。
憤怒(ふんぬ)。彼奴がただ憤怒の表情で我を見る。
「くしゅっ……。くしゅ、しッ、しッしっ」
それどころか、彼奴は爆発する寸前かのように細かく震え始めた。
あ。これ……私。死んだかもしれぬ。
私の直感がそう告げたと同時に彼奴は、大きく、大きく息を吸ったのだった。