奈良時代初期。美しくも無表情な顔で朝露を眺める黒髪を朝の爽やかなそよ風に靡かせた少女。
その少女こそが今も語り継がれるかぐや姫本人。もとい、蓬莱山輝夜である。輝夜は
月での何不自由の無い生活に飽き、月の民の嫌う、
「穢れ」に触れることすら躊躇わず、地球へと流刑になったのはいいものの、
あまりの美しさので地球の生活にも不満があった。その為輝夜はいつも無表情で、ため息をついていた。
が、詩人達は、その、溜め息すら美しいと、暇さえあれば、姫の詩ばかり書いていた。
とは言え、たまにはあまりの箱入りっぷりに周りを振り回すことも少なくなかった。
こんな贅沢な不満を抱える姫様は、村の状況や村人などはもちろん知らない訳で、この小さな一人の少女、
のちに求婚されることになる車持の皇子の謎とされている、五女のことなんて存在すら知らなかった。