【第一話 受胎告知】
私が美術室に足を運ぶことになった発端は、文化祭で美術部から借用した筆の返却からだった。
本日終了した文化祭の跡片付けがあり、看板を塗装する際に使った筆を放課後美術室に返して欲しいと委員長から頼まれたのだ。
籏野学院は校舎としては珍しく地下があり、美術室や社会科準備室などが収容されている。
ただ頻繁に訪れるような教室はないので、地下に立ち寄る生徒といったら美術部員くらいだろうか。
地下ということもあって窓は一つもなく、約2m置きに壁に備え付けられた蛍光電球だけを頼りに突き進んだ。
自身の足音が反響するほど静寂な道は、まるで夜の学校を歩いているようで少し不安がある。
やがて人の声がするようになってきたので、安堵して美術室へ向かう足を速める。
私は筆の入ったバケツを揺らしながら、小走りで美術室へと急いだ。