【Prolog】
──怖い、怖い、怖い!
声帯を通して声になることはないけれど、少女の心は恐怖の声で埋め尽くされていた。
つい二日前まで少女にとってはただのクラスメートだった人達は、今や自身を狙うハイエナと化している。
「伊賀さん、歴史苦手だもんねぇ」
ねっとりと耳に絡みつくような女子生徒の声に畏怖を覚え、一歩、また一歩と後ずさる。
とん、とき背に教室の壁がぶつかった時、少女は絶望と諦めの入り混じった感情に飲み込まれた。
もう、逃げ道がない。
「私、何も出来ずに……終わっちゃうのかな……」
震える涙声で紡いだ言葉は、誰にも届かない。
「おい理零ぃー! まだ校内戦始まったばっかだろおぉぉ〜!」
と、少女は思っていた。