その日も、雀の囀りで目を覚ました。
目をこすりながらゆっくりと上体を起こし、背伸びと欠伸を一つする。
まだ寒い朝の空気をめいいっぱい吸うと、渋々布団から抜け出す。
寒さに身を震わせながら、外の井戸へ出る。思い切って水に顔を浸した。冷たい。急いで布切れで顔を拭き、ふと視線を上げると、まだ少し低い位置に太陽が昇っていた。
村に朝が訪れた。
両親はこの時間から仕事だ。
国内の村や街を訪れ、作物を売る仕事をしている。
昨日の夜、机の上に束ねてあった稲が無くなっている。今日はトランキルという城下町にまで行くと言っていたから、恐らく夜中ごろ家を出たのだろう。
私の仕事は、そんな両親の代わりに、家畜の世話や農作物の管理をすることだった。
私が生まれ育ったこのユマン村では、それらが特産品の一つでもある。田舎、といえばそうだが、穏やかに時の流れるこの村で暮らすためには、やはりそれらの世話を怠ってはならないのだと思う。……父からの受け売りだが。
そんなことをぽつぽつと考えながら、今日も畑へ向かう。
……その道中。
村の入り口付近で、うつ伏せになって倒れている少年の姿を見つけた。
ボロボロになった服、ぐしゃぐしゃの髪の毛。手や足には、ところどころ目立つ傷が見える。
どうしようか。やはりここは、見て見ぬ振りをしてはいけないと思う。
意を決して、声をかける。
「……あの」
しかし応答はなかった。
私は近くまで駆け寄った。そして、しゃがみこんで軽く背中を叩きながら再び声をかける。
「大丈夫、ですか」
すると、小さな呻き声が聞こえた。そして、数回の瞬きの後に、ゆっくりと少年の瞼が開く。
「ここは……」
虚ろな目で辺りを見回す目を見て、私は答える。
「ユマン村だよ。……君は、どうしてここに倒れているの?」
「どうして……?えっと……確か、村を追われて……」
そこまで話したところで、少年は痛みに顔を歪めた。
傷口が痛むのだろう。家に連れて行って、手当をしようか。
「……大丈夫?立てる?」
私はそっと少年に手を差し伸べる。
その少年は、私の手を取って、ゆっくりと立った。……しかし、歩き始めたはいいものの、フラフラとした足取りで少し覚束ない。少年の歩幅に合わせて、私もゆっくりと家まで歩く。
村の民家を横切って歩く中、しばらくすると静かな騒めきが聞こえてきた。
最初は、私が傷だらけの少年を連れて歩いていることに対してかと思っていたが、どうやらそれは少年を心配する声ではないようだった。
この人たちは、この男の子を警戒している。
突き刺さるような鋭い視線と、次第に煩く聞こえる小さな声。
「……村長に知らせなければ……!」
そんな声が聞こえた。
この少年は確か、「村を追われた」と言っていた。
この村に来ても、すぐにまた居場所を無くしてしまうのではないか。
私は少し足取りを速め、家路を急いだ。