第11話:日米対立深まる
先のグルー大使暗殺未遂事件を知ったルーズベルトは手を叩いて喜んだ。
「大統領閣下、いいネタができましたな」
国務長官ハルが一音一音を噛みしめるように言った。
「ところで、グルー君はなんと言っている?」
「はい。『日本政府は謝罪する意向を示しており、合衆国は今回の事件のついて過剰反応すべきではない。無駄な追及は日米関係の悪化にしかならず、最悪の事態を招く可能性がある』とのことです」
「グルー君は、日本のことは良く知っているようだが、合衆国の内情には明るくないようだ」
とルーズベルトは不敵な笑みを浮かべながら言った。
−−−−日本とのくだらん貿易よりも圧倒的に有益なものが待っているというのに
一瞬、ルーズベルトの目が光った。圧倒的に有益なもの、それは今までどの国家も成し得なかった大偉業−−−−(米英ソ中による)四人の警察である。一時期の貿易での損失、戦争での損失など問題にならない。このルーズベルトの考えを知る者は僅かだ。彼はなかなか秘密主義な男である。ハルですら、ルーズベルトが参戦したがっているのは英国を助けるためだけだと思っており、本当の意思を知らなかった。
「外交官を変えましょうか?」
「その必要はない。日本を悪役にするには、グルー君は使えるからね」
ルーズベルトはハルら大統領顧問団を退出させると、一人、窓の外を見つめた。
「あとは、蒋介石次第になってくるだろう……」
事件から数日後、日本の外務省は公式に暗殺未遂事件について、謝罪した。
そして、その後近衛首相に対して、首相自ら直接謝罪などをする予定があるかどうかの質問があった。近衛首相は自信満々に、
「私は多忙ゆえに、それは難しい。申し訳ないが、この場を借りてお詫び申し上げる−−−−−−私はこれまでの日米間の交渉、日本の努力が無駄にならないことを願う。アジアの問題については米国にも日本にも責任があるということを互いに意識していきたい」
と答えた。少々失礼であったが、もっと大きな問題が起こった。この回答が、米国の低俗な新聞によって、
『【グルー大使暗殺未遂事件】近衛首相、衝撃の発言「謝罪は難しい」「米国にも責任」』
と発言を切り取られ、否定的な報道をされてしまったのである。近衛首相は発言が切り取られることなど一切考えていなかったのだ。
【緊急連絡】修正報告
>少々失礼であったが、もっと大きな問題が起こった。
を
>少々失礼な回答であるが、そこは問題にならなかった。別のところで大きな問題が起こった。