「おれはお邪魔だと思うから失礼するよ」
といいクマは姿を消した。
「と、取り合えず自己紹介でもしましょうか…?」
と私は話しかけてみた。
「あ、うん。そうだね。僕から言うよ。
僕の名前は 福積 千夜(フクズミ チヤ)チヤって呼んでくれて良いよ。
年齢は16で高1だよ。帰宅部だから、足手まといになったらごめんね……」
チヤと名乗った人は気弱そうな人だった。
ブカブカな黒い服を着ており、襟ぐちは大きく開かれていて肩から今にも服がズレ落ちそうだった。
丈も長く、尻まですっぽりと隠れる長さだった。
明らかにサイズが合っていないようだが、そういうのが流行っているのだろうか?流行に疎い私にはさっぱり分からな
い。
「……この服装気になる?」
ジロジロ見すぎたのだろうか。チヤが自分から聞いてきた。
「あ、はい。私、流行に疎くて……」
「あはは、流行ではないと思うよ
あ、時間もないと思うし、自己紹介お願いしてもいい?」
私は「はい」と言い、自己紹介をする。
「私の名前は 桜木 凪(サクラギ ナギ)です。ナギって呼んでくれていいです。
歳は14で中二です。部活は陸上部をやってるので、チヤさんを連れて逃げるのは任せてください!」
「……頼もしい」
とチヤがつぶやいた。
「あ、ありがとうございます。
あの、自己紹介も終ったので、そろそろ鍵を探しませんか?」
「そうだね、どこにあるのか全く分からないし、散らかしてみる?
散らかすのは……得意なんだよね」
最後の一言を聞き、チヤの自室は想像できた。
「そうですね、散らかしてみましょう」
二人で散らかしていると、思ったより早く、容易に見つけることができた。
「思ったより……早く見つかったね」
「はい。あとはこの鍵で脱出するだけですね」
私はドアに鍵を差し、まわすとカチャリっと開く音がした。
ドアノブに手をかけまわして開けて見ると、何も見えないほど真っ暗な空間が広がっていた。
「い、行きますか……?」
思わず足がすくみ、チヤに聞いた。
「行くしかないよね。僕が先に行くよ」
チヤはそう言い、足を踏み出した瞬間チヤは消えた。
「ち、チヤさん?」
とドアの向こう側に行ったはずのチヤに呼びかけるが返答は返って来ない。
もしかして、真っ暗な空間には道はなくてチヤさんは堕ちた……?
私は落ちることを覚悟して、一歩踏み出す。
思ったとおり、そこに道はなく私は闇に堕ちて行った。
クマに突き落とされた時のように……。
もしかしたら、ここでの移動方法は堕ちることなのかもしれない。
私はそんなことを考えていたが、すぐに気を失ってしまった。