―――おかしい。
立花恵那は、武女学園の校門を潜り抜け、ただただそう思った。
何人ものの、恵那の先輩に当たる女子生徒がそこにいる。それは、普通の事ではないか。誰もがそう思うだろう。
しかし、彼女らの腰は、青くて、まるでプラスチックよような、いかにも“斬れなさそう”な剣がぶら下がっている。
この学校の人達は、頭がおかしいのかな。恵那は、そう思わずには居られなかった。だが、そんな考えも、すぐに打ち砕かれる事になる。
「またブラックが来たわ!」
一人の女子生徒が、恵那の後ろを指差して、そう叫んだ。恵那はぎょっとして、反射的に後ろを見る。
そこには、“ブラック”という名前に似合いすぎてる程に、真っ黒な服装をして、木刀を持っている奇妙な男達が、五人程居た。
その男達に、生徒達は、腰にぶら下がっている剣を抜いて、突撃していく。
また、という生徒の言葉から、恐らくあのブラックという集団は、毎日のように来ているのだろう。そう考えると、生徒達の腰に剣がぶら下がっている理由が、恵那にも理解出来た。それと同時に、
「これ私危ない!」
自分の背後で戦争紛いの事が起こっていることに、恵那は恐怖を覚えた。
何十人ものの女子生徒が黒服の男を囲み、片っ端からリンチしていくその姿。自分もそのような行動を取らなければならない日が来ると思うと、恵那にとって物凄く憂鬱だ。
「君新入生!? 危ないからこっちおいで!」
その時、前の方から声が聞こえてくる。恵那は黒服の男達から視線を外し、前を見ると、そこには赤みがかった茶髪が特徴的な女子生徒が居た。
確かに、この状況は物凄く危ない。恵那は走って、茶髪の女子生徒の元まで行く。
「なんなんですか、あれ」
息を切らしながら、恵那が茶髪の女子生徒に尋ねると、彼女は苦笑いをした。
「あれね、毎日来るから倒さなくちゃいけなくて。今日は結構少ない方で、多い時は五十人くらい来るよ」
「五十人!?」
そう、五十人。苦笑いしたまま、茶髪の女子生徒は答える。恵那が彼女の下半身に目線を向けると、その細い腰にも、あの青いヘンテコな剣はしっかりとぶら下がっていた。
やっぱり変だな。と思いつつ、恵那がその剣を眺めていると、その感情を見透かしたように茶髪の女子生徒は笑った。
「君もつけるんだよ? この剣。ほらあそこ」
茶髪の女子生徒が指さした先には、二名の教師と思われる女性が立っていて、昇降口に来た新入生達に、青い剣を配っていた。
その光景を見て、思わず恵那は顔を顰める。「嘘でしょ……」という言葉付きで。
「あ、私は藤堂 夢菜(とうどう ゆめな)。二年生。じゃ、あの剣貰っておいで」
茶髪の女子生徒は、夢菜と名乗り、恵那の肩を押す。恵那は焦って夢菜の方を振り返って、こう叫んだ。
「あっ、立花恵那です! ありがとうございました!」
そして恵那は、新入生が剣を貰っている所に混ざりに行く。その姿を見て、夢菜は優しく微笑んだ後、その場を後にした。