斗輝は何気なく時計を見た。
午後8時23分を指す針。
ひまりの家はそう遠くない。
が、流石に怒らせた相手でも
独りで帰らせるには気が引けた。
壁の上着掛けからパーカーを取り、
階下に向かったひまりへ声をかける。
「おい待ってろ、送るから」
返ってきた言葉は、
突き放すものだった。
「いらない!ばーか!」
ついでにとばかりに罵声。
そしてガチャリとドアが閉まる音。
「ばかとはなんだ……」
それでも階段を降りて靴を履き、
鍵を取り出しドアを開けた。
「ひまり?」
ドアの向こうに少女の姿は無い。
通りを見渡すも先が暗くて見えなかった。
「アイツ逃げたのか」
鍵を閉めるために振り返り、
斗輝は違和感を覚えた。
「ん……?」
一瞬では気づかない程の違い。
そして鍵を閉め、
通りをもう一度見渡した時、
「なんだ?」
ようやく気づいた。
斗輝の家は住宅街の通り沿いにある。
夜ではあるが、本来なら
通りの先が暗くて見えない事などない。
道の脇には街頭が灯り、
その間隔は決して広くはないからだ。
しかし、本来街灯がある所は、
夜の闇に飲まれていた。
「何が……」
自分の家の明かりはついている。
停電ではない。
そして、
もうひとつの違和感に気づいてしまった。
「他の家……明かりが……」
ついていない。
急に不安と恐怖が襲ってくる。