「ていうか茜子、テスト平気なの? あんたニュートラルでしょ」
「あ〜! 森田先生が小テストするって言ってたっけ!?」
担任は英語教師の森田先生で、新学期早々小テストをすると夏休み前に告知していた。
脳に埋め込むことで記憶力・計算力を飛躍的にアップさせる"エボルチップ"が人口の98%普及してからというものの、ほとんど学力に差は無くなった。
私はお金が無いのと新しいものが嫌いなおじいちゃんのせいで、エボルチップを埋め込んでいない"ニュートラル"と呼ばれる劣等生だ。
ニュートラルは希少価値が高いので狙われやすく、あまり大っぴらには話していない。
「私もチップ欲しいなぁ……」
「スタンダードなら容量そんな無くても1万程度でしょう? 高性能だと何千万とかするみたいだけど」
「1万なんて大金だよ……ケータイすら買ってもらえないんだからね私! おじいちゃんもチップは危ない〜とか古い考えだし……」
もうエボルチップが普及して20年になるけど、エボルチップによる事故や死亡などは無い。
むしろ様々な恩恵をもたらしているし、色んな分野の発展を手助けしてるっていうのに。
おじいちゃんは頭が固い、平成の人間だ。
そろそろ令和も終わるというのに。
「席に着いてくださーい」
そう言って教室に入ってきたのは、担任ではなく副担任の斎藤和也先生だ。
出番が全く無いので影が薄いが、一応他学年の英語やテニス部の顧問を持っているらしい。
「なんで? 森田先生は?」
「森田先生は急遽、二学期から別の学校へ行くことになりました。新担任を紹介するから騒がないでください。転入生も紹介します」
もちろんクラスはざわつく。
「なんでいきなり!? こういうの離任式とかやんねぇーの!? なんも聞いてねぇよ!」
「なんかやらかしたの?」
「転入生も来るってマジ?」
いきなりすぎる展開に、私もあまりついていけない。
とりあえず森田先生の単語テストは無くなるってことは分かった。
「新担任と転入生ね……イケメンだわ絶対!」
「けっ、瞑ちゃんこそ少女漫画の読みすぎだい!」
「黙らっしゃい!」
転入生に夢見るのも厨坊まで。
イケメンとは限らないし、期待なんてして落胆するんじゃ転入生に可哀想だ。
「先生のことについては僕も詳しく聞いてないので話せません! お二人共入ってください」