「贋作!? 全部……!? 誰が!? 本物はどこなの!?」
思わず離れた明石君に詰め寄ってしまい、また顔が近くなる。
明石君は眉一つ動かさず、淡々と述べた。
「この美術館にある作品は全て贋作……作者は館長の志摩響也(しま きょうや)、さっきのスーツの男……本物は既に志摩響也が破棄している」
「さっきのスーツの人、ここの館長だったんだ!?」
嫌な奴だなとは思っていたけど、まさかこんなことをするなんて……!
文化祭を通して分かったけど、絵を描くってすごい集中力が必要だ。
何も考えていないように見えて、色はもう少し濃くとか、配置はこうしようとか、悩んで悩んでようやく完全する。
私のあんな幼稚園の落書き >>52 みたいなのでも、三日かけて描いたのだから、世界の名作に名を連ねるあの絵画は相当魂を込めて描いたのだろう。
それを破棄し、あまつさえ贋作を展示するなんて……!
怒りのあまり歯ぎしりして拳を握りしめていると、明石君が続けた。
「しかもこの男……ついさっきあのキツネの男にエボルチップをクラッキングされてる……」
「え、じゃあ明石君また狙われるんじゃ……!」
──早く美術館から出よう。
その言葉は、突如明石君と私の間を横切る銃弾によって遮られる。
セージの香水が、鼻腔を掠めた。
そして大きくなるは、高らかに靴底を鳴らす音。
「アカシック……アカシック……」
拳銃を持ち、ゾンビのようにフラフラと近づくスーツの男が一人。
「あー明石君、一足遅かったみたい」
自販機に煙をあげてめり込む銃弾を眺めながら、私は酷く冷静にそう告げた。