恋の女神のある【恋】の物語

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8:玲織:2019/09/16(月) 22:13

「とう、ま...?」

少女は少年を見上げ、その名を呟いてみる。
その瞳には、驚きと恐怖が揺らめいていた。
少年はそのまま黙ってしまった少女を一瞬見つめ、またにこりと笑って問いかけた。

「君は、なんて名前?」

「名前...?」

斗真がフォローのつもりで言った一言は、動揺する少女をさらに困惑させることになってしまった。

少女には名前が無い。元々はあったのだが、祠に引きこもっているうちに忘れてしまったのだ。

「名前、は、無いの」

たどたどしい口調で答える。

「(不思議な顔されるんだろうなぁ...。名前なんて誰でもあるんだから)」

沈黙に耐え切れなくなり、俯く。すると、帰って来たのは予想外の答えだった。

「じゃあ...僕が付けてあげようか?」

「え?」

開いた口が塞がらない、とはこのことなのだろう。
普通なら、「何故ここにいるのか」「親はいないのか」などのような質問をするだろう。

「あなた...私に対して何も思わないの?」

「え?う〜ん、疑問はたくさんあるけど...
前にね、『泣いている人がいたら慰めてあげなさい』って言われたんだ」

そう言って、斗真はにこりと笑う。
何の濁りもない、ただただ純粋な笑顔。
その表情に、少女は思わず惚けてしまう。

「...じゃあ、あなたは私に名前をつけてくれるの?」

「うん、もちろん」

少し考えて斗真は真っ直ぐ少女を見つめ、こう言った。

「『セイラ』ってどうかな?」

「...セイラ」

「特に理由があるわけでもないけど...可愛い名前だと思わない?」

「ないのね...でも、その名前結構好きかも」

苦笑いしながらも、少女は嬉しそうに笑った。
その表情を見た斗真は一瞬ぽかんとした後、さっきより何倍も眩しい笑顔で言った。

「良かった。これからよろしくね、セイラ」


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