セイラは斗真の言葉を聞き、固まった。
「これからって...またここに来てくれるの?」
すると斗真もセイラの言葉を聞いて固まる。
「え、セイラって何処に住んでるの?」
あ、そうか。この子は私の正体を知らないんだ。
心の中で呟き、答えることに躊躇してしまう。
「(神、なんて...信じるわけないわよ。人間は皆そうだった。信じてないくせして自分の欲ばっかり願って。まあ、この子も神って言った瞬間に帰るんでしょうね)」
心の中でそう言いながら、胸の辺りが苦しくなる。この世界に神は他にいない。私はこの子とは違う。人間と関わってはいけない。
「私はこの先の神社に住んでいるの。この意味、分かる?」
湖の中で立ち上がり、向かい合う。
セイラの質問に、斗真は首を傾げた。
「神社ってことは...巫女さんなの!?」
斗真は目を輝かせてセイラに詰め寄った。
その反応に若干困惑しながら、セイラは「違うわよ!」と一歩引く。
「私は神。あの神社の神なのよ!」
言ってしまってから、セイラは少し寂しげに顔を伏せる。キラキラと輝く水面に、悲しげなセイラの顔が映った。
この世界で神を本気で信仰している者はあまり多くない。
それ自体は何も思わないセイラだが、今回は何故だか、胸が苦しかった。
「(なんで苦しいんだろう。ただの人間なのに。私は人間とは違うのに)」
心の中で呟くが、本当は自分でも分かっていた。
自分がこの小さな少年に、いつもとは違う『感情』を抱いていることに。
「(やっぱり、寂しい。もう一人は嫌だ。せっかく人と話せたのに。せっかく名前をもらったのに)」
思えば思うほど、心の中に本音が流れてくる。
すると斗真は、またもや予想外な反応を示した。
「えっ!セイラって神様なの!?本物!?」
さっきの巫女の時以上にはしゃぐ斗真。
いよいよ混乱するセイラ。
「(この子頭おかしいの!?普通怖がったり敵対したりするものじゃないの!?)」
どうしたものか、と頭を抱えるセイラをよそに、斗真は次々と質問を投げかけてくる。
セイラはついに耐えられなくなり、ガバッと顔を上げて叫んだ。
「分かった!私のことについて話すから!!ちょっと落ち着いて!?」
すると斗真はビクッと肩を揺らし、慌て始めた。
「ごっ、ごめんね!つい興奮しちゃって...」
「じゃあ、とりあえずここに座って」
「わ、分かった」
セイラが指差したのは、さっきまでセイラが座っていた場所の隣。
斗真は靴を脱ぎ、そこに腰かけた。足が湖に浸かると共に、静かな水面に波紋が広がる。
セイラも再び腰かけ、一つ息を吐いた。
「これから話すことを信じるか信じないかはあなた次第よ。その代わり、この話を人に話すとどうなっても知らないわ。分かった?」
「もちろん。分かったよ」
少しだけ脅したつもりだったが、斗真の揺らがない表情に、セイラは少しだけ緊張を緩める。そして一瞬俯くと、ゆっくりと口を開いた。
「私はー」